感染症対応

「緊急事態宣言」が明けて

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 もう、COVID-19一色で、他の仕事がほぼ完全に吹っ飛んでしまっている状況です。
 実は職員に「お前は働きすぎだ」とダメ出しをされ、
 この3連休は何か大きなことが起こらない限りなかば強制的に休まされている状況です(汗)。
 むしろ現場で汗を書いている医療従事者の皆様には申し訳ないというか…。

 まあそれでこのような駄文を連ねる時間が多少できたというわけです。
 (もちろん、管内の発生状況等の報告は適宜電話で受けていますし、何か起こればすぐ出勤できる状況はとってます)

 基本的な気持ちは先週の知事会見や専門家会議と一緒で、
 ・爆発的な患者増加に伴う医療需給バランスの崩壊による異常事態はとりあえず現時点で少なくとも先延ばしにはできている
 ・緊急事態宣言や学校休校も一定の効果はあり、安堵している。
  (この状況では、収束していなくても新規感染者数が現状維持~若干減であれば、成功と考えるべきです)
 というのが正直なところです。
 今後も
 ・オーバーシュートを起こさせない→クラスタの芽を丁寧に潰し、できてしまったクラスタは徹底的に封じ込める
 ・感染連鎖が起こると致命的になるような場所・集団に波及させない
 が目標であることは変わらず、まだ体制を緩めることはできないと感じています。

 それに加えて、もし「オーバーシュート」が起きてしまった場合の備えも同時進行で行っていかなければなりません。
 当初の予想以上の長期戦、持久戦になりそうです。

 一方で、このような強い措置をやりますと、
 効果よりも副作用の方が先に出てくるのが常です。
 しかも効果というのは、良くても「何も起こらなかった」という極めてわかりにくいというか認識しづらい効果なので、
 はたから見ると結果的に副作用しか見えてこないということもまた、こういった対応ではよくある話です。

 いろいろあって、私自身のCOVID-19に関わる仕事自体の内情はほとんどお話できませんし、
 一昨日、専門家会議の新たな見解も出た中、
 医学的なことや感染防御策について私が語るのも屋上屋を架すようなものなので、ここではやりません。
 (某所では実名で、仕事で市町村や上司へのプレゼン、職員教育用に使っているスライドを
  限られた範囲で共有していますが、いろいろあってここではやりません。)

 そういうのはぜひ、テレビに出ているような「感染症に詳しい○○」ではなく
 感染制御や危機管理に責任をもって現在も実践に当たっている人の責任ある発言
 (お前もそうだろ、と突っ込まれそうですね。ただここは「一応」匿名ブログなので、読む人の判断になります)や
 学会声明を参考にしていただくとよいです。

 できれば、マスコミのフィルターを通さないことをおすすめしますが、
 完全にマスコミをシャットアウトしてしまっても必要な情報を得られないので、
 自治体の医師や実際に治療に当たっている医師の署名記事(読めれば論文そのもの)、
 あるいはNHKニュース速報アプリの会見生配信などがよいです。

 都道府県や保健所設置自治体首長さんの談話も、
 少なくとも科学的事項や事実関係は必ず所属行政医師のチェックを受けているので
 そこについては信頼できます。

 私自身も仕事上では情報をわりと積極的に発信しているのですが、
 そこで気をつけていることは
 ・突飛なことを言わない。賛否両論が割れて論争になっているところにはあえて踏み込まない
 ・最先端を狙わない。新知見は他の多くの専門家の評価を待つ。
 ・臨床感染症や感染制御の専門家からみて、「当たり前すぎてつまらない」と思えるようなことしか言わない
 ・最悪ケース想定の共有と、無闇矢鱈に不安を与えないことの両立を目指す
 ・表立った政府や行政体の批判や、「こうすべきだ」論は(できるだけ)言わない
 ・不用意に不安を与えない。不安の裏返しである、人々の怒りや悲しみといった感情を無用に掻き立てることは言わない

 といったところでしょうか。

 でも、これが本当にちゃんとできているのは、やはり学会声明であり、専門家会議声明だったりします。

 これからは、
 ・事態を冷静に受け止め
 ・最悪ケースを想定しつつ
 ・次に行うアクションは何かを学び、考え、実行する
 これを、政府、都道府県、市町村、各医療機関、住民、それぞれの立場で実行していかなければなりません。

 このどれが欠けても、感染症対策はうまくはいきません。

 また、感染症の恐怖に民衆が冷静さを失いパニックになれば
 感染症で失われる以上の多くの命が失われる可能性もあります。
 我々は「公衆衛生」に責任ある立場なので、たんに感染症を制圧するだけではダメなのです。
 政治と連携して、人命についても経済的にも「最小被害」を狙っていかなければならず、
 そこは医療・保健だけでない「さじ加減」が必要になります。

 誰からも文句の出ない方策なんて、最早とれる状況ではありません
 そこは我々行政が責任もって引き受けなければならないところです。

 医学・医療・保健の素人でありながら責任ある立場にある自治体幹部や首長に寄り添い、
 その政治決断を専門的知識をもって支え、
 行政体全体として住民の社会生活の維持に全力を尽くす、

 それができるのがわれわれ「公衆衛生医師」の専門性そのものであろうと確信しています。

 COVID-19で命を落とす人を一人でも少なく、
 そして、COVID-19のせいで、COVID-19以外の原因で命を落とす人も一人でも少なくするために、
 我々は、少なくとも私は、与えられた立場で全力を尽くしていますし、今後もそうありたいと思っています。

 引き続き、力を合わせ、この難局を乗り切りましょう。

 

「非公表」がデフォルトで、「公表」が当たり前ではありません。(自治体情報公開チキンレース合戦に思う)

新型コロナの道内1例目発生以来、初めて一日お休みをいただきました。
所管地域の一部がホットスポット化しつつあり、知事から「緊急事態宣言」まで出てしまった状況の中で
いろいろなことに心を痛めながら関係者の一人としてなんとか事態の収束をと日々奔走しています。

久しぶりにお昼まで寝ていようと思ったのですが、朝から結構な頭痛があり、起き出してしまいました。
ロキソプロフェンという文明の利器のおかげで、今はなんともありません。
今日一日は知事から外出自粛要請もあり、自宅でゆっくりしていようかなと…。どうせ何かあればすぐ呼ばれるのだし。

それはそうと、このコロナパニックの中で、全国の自治体が首長さんまで巻き込んでの「個人情報公表合戦」の様相を呈しており、
プライバシーとの兼ね合いで「いかに速く、どこまで公開できるか」のまさにチキンレースになっています。

大変、空恐ろしい事態になっていると感じています

私としては、いずれどこかの自治体が個人から訴えられる日が来るのではないかと戦々恐々としています。

このチキンレースに破れた自治体には、もれなく記者会見におけるマスコミの猛攻撃が待っています。
詳しくは、NHKニュースサイトの記者会見生配信をご覧になっていただければ、よ~くわかるかと。

で、厚労省事務連絡も出てきました。
一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本指針」(PDF)
二類感染症に準じる特定感染症であるCOVID-19も、これを踏まえるそうです。
各自治体からも、国に対してどこまでの情報公開をすべきかガイドラインを作るべきだとの
声が強くあり、それに厚労省が応えたものとも言えます。


さて、ここで整理すべきを整理しておきましょう。

刑法第134条第1項
「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」

国家公務員法第100条第1項
「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」

地方公務員法第34条第1項
「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。」

行政機関個人情報保護法第7条
「個人情報の取扱いに従事する行政機関の職員若しくは職員であった者又は前条第二項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者は、その業務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。」

自然災害や公務員の不祥事などにおけるリスクコミュニケーションでは、
「隠し事をしない」「言えることは全部言う」、その中で「言ってはいけないことを選別する」というのが基本です。
しかし、医療に関しては私は考え方が逆と思っています。

基本、今公表されている情報は、「全て言ってはいけない情報」なのです。
その中で情報をセレクトして、本人・家族にマスコミ開示の許可を得て、公衆衛生上必要な最小限の情報を出す、
というのが医療における個人情報公開の本来あるべきスタンスなのです。

ここが他の行政情報と、医療に関する情報の大きく違うところです。

これを勘違いして、
「出すのが当たり前」と思っている人が
あまりに多く辟易とします。

今回のコロナ事案に関して情報公開のあり方について上司(非医療職)とdiscussionをしたときに、
これを少しヒートアップしてお話してしまったのですが、
いやでもね、これ、医療は違うと言っても一般にはわからないよ。言わないと。
そう言われてしまいました。

本当に、そのとおりと思いました。上司の言う通りです。
このことを、誰も言ってないんです。
どうです?恐ろしいでしょう?コロナよりずっと。

なら、今まさに当事者の一人となっている私が言います。

医療情報はほぼ全てが個人情報です。
それを公表すること自体が「本来はいけない」ことなのです。犯罪なのです。
それを公衆衛生上の必要性と比較考量しながら、
本人・家族の許可を得て、違法性を阻却した上で「必要最低限」の個人情報を発言しているのです。

厚労省も感染研も、どこの自治体もそうだと思います。
それが当たり前なのです。
決して、公表するのが当たり前なのではありません。
「言えることを最大限に全部言う」のは、法解釈上も間違っています。
「出すのが当たり前」ではなく、
「隠すのが当たり前」なのです。

今一度、そこを認識いただいた上で、マスコミの皆さんにも情報収集にあたっていただきたいですし、
マスコミ情報に触れる一般の皆様にもこれは本当に十分に認識していただきたいと思っています。

私も、このコロナパニックでは、「現場に近い当事者」の一人になってしまいましたので、
(いつ「現場」になってしまうかはわかりませんが…)
一日も早い収束を目指して、知事の言うように「やれることは全部」やっていきたいと思っています。
改めまして、道民・そして国民のみなさまのご協力を、よろしくお願いします。

保健所は一体、何をやっているのか!?~新型コロナウイルス肺炎


ご無沙汰しております。
こういったブログ投稿をしておりますと、ファクトチェックの手間がすごくかかるので、なかなかポンポンとコンテンツを上げられない状況が続いております。

そんな中ではありますが、新型コロナウイルス肺炎が中国・武漢を中心に発生し、
厚労省の1月27日付発表では、1月24日12:00現在で、中国で2,744名の感染者が診断され、80名が死亡する惨事となっています。

一応公衆衛生医師のブログを名乗っている以上、さすがにこれをスルーすることはできません。

とはいえ、収集可能な情報は厚生労働省のサイト国立感染症研究所のサイトから収集できますし、
WHOのサイトWPROのサイトなんかでも様々な情報が発出されているわけです。

感染症専門の医師がわかりやすく解説してくれていたりもしますので、
今更屋上屋を架すが如きをやってもしょうがないので、
ウイルス学的事項や医学的事項についてはそれらのサイトを御覧ください。

SNSなんかを見ますと、何かあればまず保健所に連絡、という投稿が至るところに見られ
様々な広報の成果が現れているようで、ありがたい限りです。

ただ、じゃあ保健所は何をやっているのか、というのが一般市民の皆様から見えづらいのもまた事実です。

どうしてかというと、実際の事例が発生するか、直接の相談を受けたりしない限り
通常保健所が相手にしているのは個々の市民ではなく、
管内の市町村だったり、医療機関だったり、あるいは今回のような例なら、宿泊施設さんだったりするからです。

「保健所は啓発を行わないのか?」という声もありそうです。
例えば北海道のホームページでも触れてはいますが、
あまり細かいところまでの記載はしていません。

これはどうしてかというと、
厚生労働省や国立感染症研究所からの通知やプレスリリースなども1日1日変わっていく中で、
どれだけ急いで更新したとしても、リアルタイムにならず、結局「遅れた情報」になっていくばかりでなく、
ちょっとした情報の齟齬が混乱を引き起こす可能性が大きいからというのもあるかと思っています。

「ならば、国や国立感染症研究所のHPをみてください」という方が早くてかつ正確で即時性があるからです。

だから、住民のみなさんから見えない裏側ではいろんな調整に動いているのですが、
表立って「保健所が何かをしている」ようには見えないのです。

一方で、「疑い事例」が出ると話は変わってきます。
おそらくどこの保健所であっても、「疑い事例発生時フロー」や「マニュアル」などを作成したり、
患者受入が想定される医療機関との調整を事前に行ったりして、
いざ事例発生の際にはすぐに動けるように準備をしているわけです。

具体的には、疑い事例が出た場合の行政検査の手配と検体の発送(現在は国立感染症研究所ですが、もうすぐ各地方衛生研究所レベルでも調べられるようになるはずです)、
当該患者さんの医療の手配・受診調整、サーベイランスの届け出窓口としての業務、
然るべき医療機関への患者さんの移送、
そして確定例となった場合は、国や都道府県とも連携しながら、
本人の疫学調査、濃厚接触者の追跡フォローなどの感染拡大予防対策を行っていきます。

「疑い事例はその時点では公表しないのか?」「検査陰性の公表はしないのか?」という声が聞こえてきそうです。

仮にそのような事例が発生したとして、検査が陰性であった場合、
保健所や自治体が発表した情報から個人や場所の特定につながれば、
それは「重大な人権侵害」につながってしまうことになります。

一方で、検査陽性例、つまり確定例については、これまでの例から
厚労省が対応し、「感染拡大予防対策に必要な情報のみを公表」することになります。
実際、厚労省の記者会見の模様をライブで何回か見ましたが、
感染拡大予防に関係ない情報については公表しない方針を貫いていました。

問題は検査の結果待ちとなっている疑い事例です。
厚労省のサイトによれば
1月27日12:00現在で、国内で14件の検査を行い、うち4件が陽性(つまり公表されている確定例)でした。
裏を返せば、14件検査をやって、10件が陰性であるわけです。

感染症対応においては「人権やプライバシー」と、社会防衛の概念は
時に相反するものとなります。
その匙加減は大変に難しいものです。

たとえば報道各社にしても、記事にするネタが欲しいでしょうから、
当然いろいろなことを聞いてくるわけです。
それはそういう仕事なので仕方がないとは思います。

しかしながら、社会防衛のために、感染者、あるいは疑い症例の人の人権やプライバシーに
制約を加えて良いということになりますと、
それはかつてのハンセン氏病の悲劇を繰り返す端緒となりかねない、ある意味危険な考え方でもあります。

行政としては、その匙加減を慎重に図りながら、やっていくしかないのです。

「健康危機管理」という言葉があります。

住民という集団の健康を害する可能性のあるリスクとしては、
今回のような感染症であったり、集団食中毒、環境汚染、水質汚濁、はたまた毒劇物を使用した犯罪であったり、
あるいは地震・大雨のような自然災害であったり、あるいは戦争や騒乱なんかまで挙げられます。

そのような危機的状況において、住民の健康を政策的手段で守るための方策が、
いわゆる「健康危機管理」なわけです。

具体的にはリスクに関する調査を行い、いろんな可能性を潰していき、
そしてそのリスクを他部局と協力して取り去る、あるいは実際の有害事象として住民に害が出る前に
食い止めるというのが危機管理の手法となります。
根本的手段から姑息的手段まで、有効と思われる様々な手段を用いることになります。

現在中国で行われている旅行制限や移動制限もその一つの手法です。

しかし、通常の状況でそんなことをすれば当然日本では人権問題になるわけで、
そこは、対象となる健康危機のトータルでの怖さによってさじ加減を変える必要があるわけです。

こういった危機管理や、危機に際しての陰での調整作業なんかはなかなか見えにくいところなので、
それもあって、有事に保健所が何をするのかが分かりづらいということになってしまいます。

今回のコロナウイルスにはまだまだわからないことが多くあります。
しかし、それと同時にわかってきたこともいろいろ出てきました。

国、都道府県、保健所、そして各市町村、医療機関、その他の施設など
さまざまなクラスタが協力しあって、なんとか人的被害を最小限に食い止めるべく
頑張っていかなければなりません。
みなさまにおかれましても、行政や自治体から協力依頼がありました際には、
何卒ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

【公衆衛生医師のお仕事28】麻しん対応

 今回は少し長い話になりますが、是非お付き合いいただければと思います。

 

 さて、麻しん(はしか)に関する報道が散見されております。

 

 先だっての報道で、某病院が麻しん患者の発生について公表しようとしたところ、所管の保健所に
 「公表しないよう伝えていた」「非公表にしていた」と伝えられています。
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190213/k10011814011000.html

 

 そのトーンは様々ですが、それだけ情報が錯綜というか、
 感染症に対して保健所の持っている権限を理解して書いてない記事だな
 という印象を受けました。

 

 いずれにしても、当該保健所はずいぶんネット上でも叩かれていました。

 

 このニュースを目にした時思ったのは、「にわかには信じがたい」という印象です。

 

 私自身は報道に対する姿勢として心がけているのは、
 「○○が✕✕した」という報道があったときは、
 あくまで「『○○が✕✕した』と報道された」という事実としてとらえることです。

 

 報道を盲信して、その情報のみを鵜呑みにして突っ走ると、より大事なことを見失うことがあります。

 

 では、なぜ「にわかには信じがたい」と思ったか。

 

 麻しんについては、多くは自然治癒する病気であるものの、
 いったんかかってしまったら、ウイルスをやっつける薬は存在しませんし、
 一定の割合で重症化したり命にかかわる事例もあります。
 まれではありますが、「亜急性硬化性全脳炎」という深刻な後遺症を感染後数年たってから発病することもあります。

 

 ただ、麻しんの怖さはそこではありません。
 感染症のうつりやすさを示す指標に「基本再生産数(R0)」という数字があります。
 一人の患者が何人に感染させるかを疫学的に計算して出した指標ですが、
 インフルエンザでこの数字が2程度ですが、
 麻しんでは12~18と言われています。

 

 麻しんウイルスは空気感染し、すれ違うだけでも感染する危険性があるとされ、
 患者がいなくなったあとも部屋のような空間では
 2時間くらいはウイルス粒子が空中を漂い続けるという
 「うつりやすさ」という面では大変タチの悪い感染症です。

 

 

 

 しかし、MR(麻しん風しん混合)ワクチンの普及に伴い、
 麻しん患者は2008年の学生を中心とした流行以来
 日本国内では激減し、そして2015年にはついに
 WHO西太平洋地域事務局より
「日本には土着の麻しんウイルスはなくなった」と認定されました。
 専門用語では「排除」(elimination)といいます。

 

 そのような状況下で、麻しんが1例出る(海外から持ち込まれた、ということになります)ということは
 大変なおおごととしてとらえる必要があります。
 麻しんの特徴として、発病当初は症状だけでは風邪と区別がつかず、
 さらに症状出現の1日前より感染性をもつというところが挙げられます。

 

 また、麻しんの潜伏期は10~14日、長くて3週間くらいと言われています。
 つまり
 「患者が見つかった瞬間にすでに誰かに感染させている可能性が高く
  しかもそれが判明するまで2~3週間かかる場合がある

 という、非常に対策の難しい感染症なのです。

 

 なので、いったん患者が見つかった場合、
 ・どこから持ち込んだか(どこで誰から感染したか)
 ・どこで人に感染させた可能性があるか
 この2点を調べるため、「積極的疫学調査」といって
 その患者の行動範囲を発症3週間前からとことん洗い出し、
 感染している可能性の高い接触者にはあらかじめ網を張り、
 場合によっては不要不急の外出の自粛なんかもお願いし
 感染性の高い期間に人が多数集まる場所に出入りしていた場合には
 そういった施設にもお願いして、同意が得られれば
 施設名を公表して注意喚起を行ったり、
 あるいは患者さんに同意を得た上で
 時系列による行動範囲や、居住地などを公表したりします。
(主に飛行機や列車などの交通機関や、デパートなどの公共の場所、あるいは受診した医療機関など)
 これらの調査は保健所スタッフ(医師や保健師)が、じかにやります。

 

 当然、患者さんの行動の足跡を公表するには本人の同意が必要ですし、
 施設名や医療機関名を公表するには当該施設の同意が必要です。

 

 保健所の調査権限については感染症法第15条に定められていますが、
 公表についても実は第16条に厚生労働大臣や都道府県知事(つまり保健所)の
 義務として定められています。

 

 ただ、第16条第2項では、「前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。」とも定められています。

 

 多くの自治体がこれについては何らかのきまりを決めて対応しているものと思いますが、
 北海道においても報道各社との協定のもと、
 (おそらく)施設や個人からは文句の一切出ない(であろう)基準を定めて
 その基準の中で公表を行っています。

 

 しかしながら、それを越えて公表を行うとなると、
 いろいろな面で軋轢が出てくる場合があります。

 

 それを避けるための協定なので、当然と言えば当然であります。

 

 ここに関して保健所は、実は何の権限もありません。

 

 必要に応じて、「お願いベース」で公表の同意を得てからの公表となります。
 もちろん、公表した施設や医療機関にそれから行ったとしても、麻しんをうつされることは
 これはありえないのですが、
 「風評被害」を恐れて施設側が発表を拒む場合があります。

 

 それを強制的に公表する権限については
 今はエボラ出血熱やMERS、新型インフルエンザなど、より恐ろしい感染症で
 ようやく議論されているところです。

 

 実は私自身も行政医師として麻しん対応をした経験がありますが、
 患者の発生した自治体名をつい、市町村レベルで「ポロリ」してしまったことがあります。
 (ふつう公表するのは、どの保健所管内か、までです)
 周囲の職員の顔色が一瞬で変わり、すぐさまフォローが入りました。
 それだけ情報の管理には気を遣っているのです。

 

 麻しんの法的な位置づけですが、「五類感染症」に定められています。

 

 感染症法で定める感染症には一類~五類と、「新型インフルエンザ等感染症」があります。
 一類は、有名なエボラ出血熱や、クリミア=コンゴ出血熱、ペストなどの致命的な病気、
 二類は、MERS、鳥インフルエンザの一部、結核など一類ほどではないけれど重い感染症、
 三類は、腸管出血性大腸菌O157のように、感染者の就業制限が必要になる感染症
 四類は、主に動物由来の感染症(E型肝炎や、エキノコックスなど)
 五類は、それ以外で指定する理由のあるもの(多数)
 で、感染症法上の麻しんは五類ですので、
 「その他大勢の一つ」という扱いでしかないのです。

 

 うち、患者に入院勧告(および措置)権限があるのは一類、二類のみで、
 あとは一~三類で就業制限が認められていますが、
 それと新型インフルエンザ特措法による対応以外には
 保健所(都道府県知事)が感染症患者に対して行動制限を加える法的根拠はありません。
 調査権限については感染症法で認められていますが、
 調査した結果を公表するための基準はありません。

 

 したがって、当事者の同意のもと、調査を行った保健所の判断で
 患者の移動範囲や、利用施設名を公表したりします。
 しかし、ここで当事者に公表を拒まれた場合、
 公表をかりに強行したとしたら、
 もう結果は火を見るより明らかです。

 

 これをお読みのみなさんが仮に麻しんにかかった患者だとして、
 行動の中に、「こっそり浮気をしてラブホテルに入っていて2人とも発症」とか、
 「今の勤務先のライバル会社にヘッドハンティングされていて、内緒でそちらに面談に行っていた」とか、
 「DV被害者で夫から逃げるのに新幹線を使った」とか、
 「内緒で性感染症を治療するために同じ日に同じ病院の泌尿器科を受診していた」とか、
 とにかく人に知られたくない事情があった場合に、
 保健所が行動履歴を公表したことで、個人が特定されて
 不都合なことが起こってしまった場合を考えてみてください。
 それが自分だったらと…。

 

 たとえ名前や居住地を秘匿していようが、行動履歴と性・世代だけで個人を特定できることは
 現実的にあり得ることであって、
 それによって個人に取り返しのつかない損害を与えてしまうこともありうるのです。
 だから、どんな感染症でも、個人や施設の特定につながる情報の漏出には
 どこの保健所でも慎重になります。

 

 これまで読んできた皆さんにはもうわかると思いますが、
 医療機関が自分から「公表を申し出る」ということは、
 保健所からしてみれば願ってもないことです。

 

 それを「公表しないよう伝える」ということが、
 果たして現実的にあり得るものなのか、というところが
 報道の方をむしろ疑問に感じた一番の理由です。

 

 むろん、これまで保健所が公表してきた情報との齟齬による混乱を避ける目的で
 公表前に事前の情報共有を求めたり、記者レクに保健所職員の同席を求めることは
 これはありうることです。

 

 なので、報道を見たときに思ったのは、
 保健所は情報共有の準備を整えていて、それが終わるまで待ってくれという意味合いの話をしたのか、
 あるいは、患者個人の情報につながる情報にリンクする情報が含まれるため、
 当該患者の同意というか合意が得られるまで公表を待つことを勧めたのか、
 あるいは、単純に病院の風評被害を心配して「まだ公表には及ばない」と考えたのか…(もしこれならちょっとまずいですが…)

 

 いずれにしても、保健所には病院が麻しん患者の受診を公表することについて、強制する権限もなければ、やめさせる権限もありません。
 これについては報道で保健所側のコメントとして記されていた通りです。

 

 ただ、麻しんのまん延防止の観点から言えば、公表を止めることに全く利はありません。
 情報を秘匿する利益が、保健所にはないのです。

 

 以上が「公表を止めたとはにわかには信じがたい」理由です。

 

 結局今わかっている確実なことは
 「『保健所が麻しんを公表しないよう病院に伝えた』という報道がされた」という「事実」だけです。

 

 本当に「公表をやめるよう」伝えたのであれば、法的にはともかく
 感染症対応としてはやはり問題だとは思います。
 なのでことさらに保健所を擁護するつもりはありませんが、
 感染症に対する一つの事実を、公権力をもった「役所」である保健所が公表するためには、
 多くの検討と手続きを経る必要があることはご理解いただきたく思います。

 

 そして、最後になりますが、
 皆様も不幸にして麻しんにかかってしまうかもしれません。
 予防接種を2回受けていても「修飾麻しん」といってやはり感染の可能性は0ではありません。
 しかし、麻しんの感染性をこの文を読んで知っていただいた皆さんには、
 是非、情報共有に協力してほしいのです。

 

 もちろん、医療機関や大規模で不特定多数が出入りする施設のオーナーさんもそうです。
 きちんと保健所を味方につけて、風評被害が起こらない公表の仕方を考えれば良いのです。
 情報公開をちゃんと行った施設は、
 「ここの施設や医療機関はこんな早い段階で公開するとは危機管理のあり方として素晴らしい」
 と賞賛されるべき施設です。
 むしろ今の時代、下手に秘匿してあとでわかった方が、組織防衛上も
 よほど損失が大きいはずです。

 

 いったん始まった麻しんのアウトブレイクを終息させるには
 保健所の力は絶対に不可欠です。
 しかし、こんなタチの悪い感染症、保健所の力「だけ」では
 対応はできません。
 住民の皆さんや医療機関も含めた各施設の協力はどんな場合でも必要です。

 

 麻しんは、本来すでに今の日本には「ない」病気です。
 対応の経験者としてお願いします。
 終息に向け、何卒皆様のご協力をお願いします。

 

 そして厚生労働省には、
 麻しん対策のための情報公開、情報共有について
 ガイドラインなどと現場に権限を伴わず責任だけを負わせるような小狡いものではなく、
 感染症法改正など、より実効性のある制度改正を切に願うものです。

 

 そしてもう一つ、麻しんおよび風しんワクチンの接種率向上に
 皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

 

溶連菌咽頭炎の流行と抗菌薬とヘルスリテラシー

 

ご無沙汰しております。

 

うちの管内ではA群溶血性連鎖球菌咽頭炎がえんえんとくすぶっており、ついに警報まで発せられてしまいました。

この疾患の名前を見ると、臨床の第一線を離れた今でも、抗菌薬(抗生物質)について考え込んでしまいます。

え~と本日はやや玄人向けの内容になりますが、よろしければ最後まで医療と普段かかわりのない皆さんにもお読みいただきたい内容です。

 

ただ、なかなか理解が難しいかもしれません。ブログという場で「万人向け」の説明をオールインワンで行うことは、私の文章力では難しいということもあり、どうしてもわからないという方は、

 

「臨床現場というのは一筋縄ではいかない。そんなに単純なものではないし、単純化してお話しできないこともある」ということを覚えておいていただければ十分です。

 

さて、この疾患に対する抗菌薬の適応にはいろいろな考え方があります。

 

そもそも、「咽頭炎」(一般には「扁桃炎」「扁桃腺炎」ということが多いですが正式な病名はこちらです)というのは「A群溶血性連鎖球菌(以下、A群溶連菌とします)」のみで発症する病気ではなく、原因は細菌とも限らず、実はウイルスによるものも多いとされています。また、細菌感染による咽頭炎であったとしても、A群溶連菌以外に対する治療を行う意義がはっきりしておらず、さらにA群溶連菌であったとしても、その治療の目的は合併症の一つである「リウマチ熱」の予防にあり、症状軽快や、溶連菌感染後糸球体腎炎の予防効果は証明されていない、ということがあります。」

 

そのために、「抗菌薬による治療の必要な咽頭炎」というのはどういうものかを決めておく必要があります。

 

そこで、Centor先生という医師が作ったのが、1,38℃以上の発熱 2,白苔を伴う扁桃の腫脹 3,頸部リンパ節の圧痛を伴う腫脹 4,咳が「ない」

 このうち3つ以上を満たした場合、約8割が細菌感染による咽頭炎であり、抗菌薬による治療が必要という考え方と、いや、A群溶連菌でなければ抗菌薬による治療は原則不要だし仮にこれを見逃したとしても失うものは多くはないということで溶連菌迅速テストを抗菌薬の使用条件に加えている医師もいれば、その折衷案で2~3つ満たす+咽頭溶連菌陽性および4つすべて満たす場合は治療する、という医師もいます。(ここらへんは、http://blog.livedoor.jp/kmcid929/archives/1644263.htmlに詳しく述べられています。こっちの方が解説わかりやすいです

しかしながら、普通の感冒に経口抗菌薬を処方する医療文化をもつ我が国では(いや他国知りませんが…)、経口抗菌薬を強く要求される場合もあります。こちらもまずは医学的適応を考えてから「さあ、どうしましょう」と患者さんと相談するわけですし、あるいはCentorの基準で0~1点という咽頭炎だったりすると「扁桃腺炎なのに抗生物質出してくれないんですか!?近所の○×耳鼻科さんでは出してくれたし、よく効きましたよ」などと過去の成功体験(しかも再現性に乏しく偶然抗菌薬投与後のタイミングでよくなったとしか思えないような…)を持ち出してくる方もいらっしゃいます。

 

 ただ、そもそもが高校の保健体育程度の身体に関する知識を持ち合わせない方もいらっしゃり、そのような方に「こういった症例には抗菌薬は不要です」ということを本当の意味で理解していただくためには、相当な情報量のお話しが必要です。(中には執拗に抗菌薬処方を要求され「細菌ではなく、ウイルスで」と切り出したとたんに「そんな専門用語で言われたってわかりません!」とキレるような方もいらっしゃるのです

 具体的には

・症状や検査の結果を総合的に勘案して細菌性咽頭炎よりもウイルス性の上気道炎である可能性が高いこと

・ウイルス性上気道炎には抗菌薬は無効であること。

・ウイルス性上気道炎に対し、抗菌薬投与が肺炎などの二次感染の予防に有効との証明がされていないこと

・かりに細菌性咽頭炎を見逃していたとしても、それを見逃したことによって被る患者の不利益はわずかであること

・経口抗菌薬も決して無害ではなく、クロストリジウム・ディフィシル感染症などの副作用もあること

・また、不要な抗菌薬投与によって意図しない菌(グラム陰性桿菌など)に対して耐性誘導をしてしまうという「目に見えない不利益」があること

 を、とても根気強く説明する必要があり、インフルエンザや風邪の流行する時期に、Lemierre症候群や咽後膿瘍・扁桃周囲膿瘍だけではなく、腎盂腎炎・胆道感染などといったそれこそ命にかかわる感染症の鑑別を丁寧に行いながらこんなことをやっていたら、内科外来どころか待合室、いや病院・診療所の玄関先までパンクしてしまうわけであって、とてもじゃないけれどやってられません。だいいち、待っている多くの患者さんに迷惑です。その中にも待てないホンモノの重症の患者さんだっているかもしれません。

 一方で、使う抗菌薬の種類にも蘊蓄があります。一般にA群溶連菌咽頭炎に対する治療は、リウマチ熱の予防の目的でペニシリン系抗菌薬10日間の投与が標準治療として行われます。アレルギーのある人だと異なる薬を使う場合があります。

 一方で、これに対して「よく効くエビデンスがある」として、セフカペン・ピボキシルやセフジニルなどの(すみません。商品名は何かと問題になることがあるかもしれないので載せません。各自で調べてください。)いわゆる「経口第三世代セフェム」5日間内服を勧める向きもあります。前任地で根気強い話し合いの末に「経口第三世代セフェム」の院内処方採用を全面中止させた私としては、さすがにこれにはビビりました。私は、やっちゃいけないことをやってしまったのか

 まあ、効くといえば、たしかにそうなのかもしれません。しかしながら、

・咽頭炎のほとんどは(細菌性も含め)、無治療でも自然治癒する
・咽頭炎に似た症状を示すが命にかかわる病気(咽後膿瘍・扁桃周囲膿瘍・Lemierre症候群・急性喉頭蓋炎など)は、基本的に(可能な限り耳鼻科などの専門医に紹介して)入院の上で「注射」抗菌薬の適応であり、これらに一般内科医が外来で経口抗菌薬処方で対応することは「通常は」あり得ない。
・一方で、経口第三世代セフェムによって、本来命に関わる重症感染症に使われる第三世代セフェム「注射」薬に対する耐性菌を地域にまん延させてしまう不利益の大きさ

これらを比較して、咽頭炎に対して経口第三世代セフェムを投与するメリットが勝るかどうかと考えると、やはり消極的にならざるを得ません。なにもそこまでという考え方ももちろんあろうかと思いますが、「あれば出したくなる」というわけではありませんが、院内処方で採用している薬は使わないと不良在庫化して、その購入に費やしたお金は施設の持ち出しとなります。これは医療機関の経営上大きな問題となりますので「何らかの対応」を「現場の医師が」迫られることとなります。

 まあ、とあるプロフェッサーのように急進的な立場はとりませんが、実際に私が臨床をやっていた最後の数年間で経口第三世代セフェムをしょうがなく投与したのはたぶん一例のみ、今でも覚えています。

離島で急性胆管炎を発症、内視鏡処置の適応となるが島内ではその処置ができないため、フェリーによる対岸の病院への搬送を何度も勧めるも、自力で飛行機に乗って札幌まで行くことを強く希望され、やむをえず、札幌の病院を受診するまでの間これを内服してくださいと1日分だけ処方した、そのたった一例だけです。(むろん、道中にショックとなり、場合によっては命を落とす可能性や、島内の医療体制が維持できなくなるため札幌までの医師・看護師の同行は不可能であることはお話ししています)。

…というわけで、「臨床現場というのは一筋縄ではいかず、そんなに単純なものではないし、単純化してお話しできないこともある」という結論に至るわけであります。(それは医学的知識だけじゃなくて、患者さんの社会的背景も同じですよね…)

一応つっこまれると思うので注釈しておきますが、「単純化してお話できない」ということと、「わかりやすく説明する努力を怠る」ということは全く別なことです。

 ただ、願わくは高校生物で習うような細菌とウイルスの違いとか、ウイルスには抗菌薬は無効であることとか、少なくとも医師の説明を理解するために必要な最低限度の知識は「患者サイドで」身につけておかねば、本当の意味での「インフォームドコンセント」は難しいなというのが実感です。

 …そうは言っても、では何で勉強したらいいかと言われるとこれもまた玉石混淆で(とくにネットは)困ってしまいます。中には医師免許を取得したにも関わらずデタラメを語るとんでもない輩もいますし

 「患者よ、闘うな」とか命令をするつもりは毛頭ありませんが、加えてお願いするなら、高校の保健体育と生物の教科書は、軽く(テストを受けるときのように濃厚にではなくとも構いませんので)目を通しておいていただくとありがたいかなそういう情報の取捨選択を含めて「ヘルスリテラシー」というのかな…とは元臨床医の立場としては思います。

 「どんな医者が信用に値するか」とは、これもまた難しい問いであります。人体というとても「あいまいなもの」に「はっきりとした結論」を下せないまま、それでも「検査・治療の方向性」は「決断」しないといけない「医師の資質・能力」なんてのは、それこそ「一筋縄ではいかず、単純化してお話しすることのできない」ことだからです。

 臨床を離れても、悩みは尽きません

 

 

抗インフルエンザ薬の点滴

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
本年も何卒、よろしくお願い致します。

 

すでに1年9ヶ月が経過しております、「Mission:離島」ですが、
今年度をもって、「Mission:離島」は終了し、新たなステージに活動の場を移すこととなりました。
詳細はまだ未定なのですが、「はぐれドクター」らしい行き先になりそうだ、
ということだけ記しておきます。

 

もっとも、離島医療そのものは大変楽しく、充実していますので、
もう少し、あと2ヶ月離島で頑張らせてください。

 

さて、某社からインフルエンザの啓発CMが出ています。
「◯◯の症状がでたら、お医者さんに相談!」というCMをみたことのない人は
そもそもテレビを見ないことにしている人以外はいないでしょう。
(私は「不必要なテレビはつけない」派なので、めったに見ないのですが…)

 

これらの製薬会社の啓発CMは、
病気に関する知識の啓発を装ってはいますが、
該当する疾患の患者さんに自社の薬を使ってもらうことが目的であることに
注意が必要です。

 

インフルエンザの症状があれば早めに医療機関へ

 

そもそもこれ自体が間違っているのです。

 

ごく一部のもともと抵抗力の弱い方、持病のあるお年寄りなどを除いては、
インフルエンザは大半の方が「家で寝ているだけで」治る疾患です。
むろん、熱が出るとつらいので、
副作用を起こしづらいタイプの解熱薬を使用することまで反対するつもりはありません。
(ただし、きちんと種類を考慮しないと「ライ症候群」と呼ばれる重篤な副作用を
起こす可能性がありますので、それこそ「医師に相談」を!)

 

抗インフルエンザ薬には内服、吸入、点滴がありますが、
その全てについて、約1日程度解熱を早める作用があることは知られていますが、
しかしながら、脳炎や肺炎などの重症化を抑える作用は現時点で証明されていません。
また、他者への感染を抑える効果も現在のところ「ない」とされています。

 

したがって、この薬剤の適応は本来、
「1日発熱が長引くことが命取りになりかねない」患者さんに限定されるべきなのです。

 

このCMは以下の点で罪深いのです。

 

1,本来外来に来る必要のなかった方まで通院することによって院内感染の原因となる。
  インフルエンザには「無治療」という選択肢があることを意図的に言及していない。

 

インフルエンザも含めた全ての感冒症状の診療の一番のキモは、
「感冒以外の病気を鑑別する」ことです。

 

したがって、「風邪やインフルエンザではないのではないか?」ということが心配で来院される、
というのはワタシ的には「あり」と思いますし、
実際それで風邪やインフルエンザ以外の病気が見つかることもありますので、むしろ大歓迎です。
しかしながら「インフルエンザが心配だから」と医療機関にかかっていただいても、
実は何もできることはないのです。

 

「検査をして職場にインフルエンザを証明してほしい」という方も大勢おられます。
明らかに咳、鼻水、関節痛+発熱といった症状と、
インフルエンザの流行がある中でそういう症状にかかっても
休むのに医師の診断書が必要という状況がおかしいのです。
それ、「ブラック企業」ですよね。

 

 そういう方が医療機関に来られることで、
糖尿病や高血圧など、慢性の病気でかかられる方が不必要にウイルスに暴露してしまうという現実を知ってほしいのです。
(知恵のある方は投薬期間などを調整して、この時期に通院しなくてもいいように希望される患者さんすらいらっしゃいます。)

 

2,インフルエンザに対して外来で点滴をする困難に対する配慮を欠いている

 

日本人の「点滴信仰」は、他の場所で語り尽くされていますのでここでは触れませんが、
もし「点滴希望」の患者さんが複数来院され、そのとおりにした場合、
点滴にも時間がかかりますので、その間
「インフルエンザにかかったことがわかっている患者さんを隔離しつつ点滴をするスペース」が
必要になります。

 

国内の医療機関はどこでも、外来での患者さん間の感染については
当然のことながら最大限の注意を払っています。
小児科でよくあるように発熱者の診察室そのものを分けたり、待合スペースをわけたり、
あるいは新型インフルエンザ流行の際に見られたように
そのために新たな棟まで設けているところまであります。

 

抗インフルエンザ薬の点滴が出てからも多数のインフルエンザの患者さんを診てきましたが、
私自身が担当した方で抗インフルエンザ薬の点滴をしたのは、
入院していただいた高齢者1名と、内服・吸入が明らかに困難なお年寄り1名、
計2例だけであることは特に記しておきます。

 

3,「無治療経過観察」の説明がいかに大変かということの理解がない

 

私も外来は決して早い方ではありません。
現在の私の勤務する医療機関は、完全「非」予約制なのですが、
外来診察のペース管理のために、何時台に何人の患者さんを診察したかを毎日チェックしています。
大体1時間あたり10人のペースを割ると、「遅い」と苦情が来るようです。
(患者さんの出入り、着脱衣、カルテ記載も全て含めて一人あたり6分のペースです)
私自身は1時間あたり12人以上、つまり一人当たり5分を切ることを目標に外来を進めていますが、
(もちろんこの中には入院が必要なくらい具合の悪い患者さんも含まれます)
「3時間待ちの3分診療」にはこういった背景もあります。

 

その中で、最も時間がかかるのは
「心身症の患者さんへの対応」と「無治療経過観察の説明」です。
前者はいわずもがなで、これはむしろ時間をかけなければならないのですが、
そもそも薬がどんどん増えていくのは、
「無治療という選択肢を説明するのが面倒だし、時間がかかるから」
というのもあるのです。

 

患者さんの中には「せっかく病院に来たのだから何かしてもらわないと」という考えの方も
多いですし、あまつさえ
「検査をして正常だったので、検査料・診察料は払わない」という言語道断な方もいると聞きます。

 

そういう医療風土の中で「無治療経過観察」の選択肢を説明することは、
これは大変なことなのです。
いっそ、患者さんの「希望」通りに薬を出してしまったほうが
はっきり言って外来は早く進みますし、こちらも楽です。

 

しかし、それは少なくとも「免許を持った医師」のすべきことではありません。

 

もちろん、製薬会社にも「悪気」はないのでしょうが、
こちらもプロならあちらもプロです。
「悪気」がないならもっとダメだと思います。

 

私からのメッセージとしては、

 

・インフルエンザは、もともとの持病のない健康な成人であればほとんどの場合自然治癒する
 病気ですので、投薬どころか、通院すら必要ない場合も多いです。

 

・それでも医療機関にかかっていただきたいのは、
 「乳児・お年寄り・持病があって免疫力の弱い方」と、
 「風邪やインフルエンザ以外の病気が心配な方」です。

 

・日本の各企業については、インフルエンザも含めた「かぜ症候群」に対して
 休業のための診断書目的に医療機関を受診させるようなことをやめていただきたい。

 

・現在の日本に医療機関は、ただでさえ院内感染対策に多くの出費を強いられており、
 そこに「抗インフルエンザ薬の点滴のための隔離スペース」などという
 「無駄な出費」を強いるのはやめていただきたい。

 

ということです。

 

インフルエンザも含めた「かぜ症候群」は、何より「もらわない」ことが最大の予防です。
手洗い、不用意に人混みに入らないなどの対策を十分に行うことが大切です。
皆様がこの冬を平穏に越されることをお祈りいたしております。

インフルエンザについて…

ついつい自分で詳細を書くのがめんどくさいので人任せになってしまいますf^_^;

 

朝日のサイトの記事ですが、よい記事です。

 

ぜひご参照ください。

 

アピタル 町医者だから言いたい! インフルで学校や会社を休む期間

 

https://aspara.asahi.com/blog/machiisya/entry/92xca0tYPW

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