健康危機管理

【公衆衛生医師のお仕事28】麻しん対応

 今回は少し長い話になりますが、是非お付き合いいただければと思います。

 さて、麻しん(はしか)に関する報道が散見されております。

 先だっての報道で、某病院が麻しん患者の発生について公表しようとしたところ、所管の保健所に
 「公表しないよう伝えていた」「非公表にしていた」と伝えられています。
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190213/k10011814011000.html

 そのトーンは様々ですが、それだけ情報が錯綜というか、
 感染症に対して保健所の持っている権限を理解して書いてない記事だな
 という印象を受けました。

 いずれにしても、当該保健所はずいぶんネット上でも叩かれていました。

 このニュースを目にした時思ったのは、「にわかには信じがたい」という印象です。

 私自身は報道に対する姿勢として心がけているのは、
 「○○が✕✕した」という報道があったときは、
 あくまで「『○○が✕✕した』と報道された」という事実としてとらえることです。

 報道を盲信して、その情報のみを鵜呑みにして突っ走ると、より大事なことを見失うことがあります。

 では、なぜ「にわかには信じがたい」と思ったか。

 麻しんについては、多くは自然治癒する病気であるものの、
 いったんかかってしまったら、ウイルスをやっつける薬は存在しませんし、
 一定の割合で重症化したり命にかかわる事例もあります。
 まれではありますが、「亜急性硬化性全脳炎」という深刻な後遺症を感染後数年たってから発病することもあります。

 ただ、麻しんの怖さはそこではありません。
 感染症のうつりやすさを示す指標に「基本再生産数(R0)」という数字があります。
 一人の患者が何人に感染させるかを疫学的に計算して出した指標ですが、
 インフルエンザでこの数字が2程度ですが、
 麻しんでは12~18と言われています。

 麻しんウイルスは空気感染し、すれ違うだけでも感染する危険性があるとされ、
 患者がいなくなったあとも部屋のような空間では
 2時間くらいはウイルス粒子が空中を漂い続けるという
 「うつりやすさ」という面では大変タチの悪い感染症です。

 

 しかし、MR(麻しん風しん混合)ワクチンの普及に伴い、
 麻しん患者は2008年の学生を中心とした流行以来
 日本国内では激減し、そして2015年にはついに
 WHO西太平洋地域事務局より
「日本には土着の麻しんウイルスはなくなった」と認定されました。
 専門用語では「排除」(elimination)といいます。

 そのような状況下で、麻しんが1例出る(海外から持ち込まれた、ということになります)ということは
 大変なおおごととしてとらえる必要があります。
 麻しんの特徴として、発病当初は症状だけでは風邪と区別がつかず、
 さらに症状出現の1日前より感染性をもつというところが挙げられます。

 また、麻しんの潜伏期は10~14日、長くて3週間くらいと言われています。
 つまり
 「患者が見つかった瞬間にすでに誰かに感染させている可能性が高く
  しかもそれが判明するまで2~3週間かかる場合がある

 という、非常に対策の難しい感染症なのです。

 なので、いったん患者が見つかった場合、
 ・どこから持ち込んだか(どこで誰から感染したか)
 ・どこで人に感染させた可能性があるか
 この2点を調べるため、「積極的疫学調査」といって
 その患者の行動範囲を発症3週間前からとことん洗い出し、
 感染している可能性の高い接触者にはあらかじめ網を張り、
 場合によっては不要不急の外出の自粛なんかもお願いし
 感染性の高い期間に人が多数集まる場所に出入りしていた場合には
 そういった施設にもお願いして、同意が得られれば
 施設名を公表して注意喚起を行ったり、
 あるいは患者さんに同意を得た上で
 時系列による行動範囲や、居住地などを公表したりします。
(主に飛行機や列車などの交通機関や、デパートなどの公共の場所、あるいは受診した医療機関など)
 これらの調査は保健所スタッフ(医師や保健師)が、じかにやります。

 当然、患者さんの行動の足跡を公表するには本人の同意が必要ですし、
 施設名や医療機関名を公表するには当該施設の同意が必要です。

 保健所の調査権限については感染症法第15条に定められていますが、
 公表についても実は第16条に厚生労働大臣や都道府県知事(つまり保健所)の
 義務として定められています。

 ただ、第16条第2項では、「前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。」とも定められています。

 多くの自治体がこれについては何らかのきまりを決めて対応しているものと思いますが、
 北海道においても報道各社との協定のもと、
 (おそらく)施設や個人からは文句の一切出ない(であろう)基準を定めて
 その基準の中で公表を行っています。

 しかしながら、それを越えて公表を行うとなると、
 いろいろな面で軋轢が出てくる場合があります。

 それを避けるための協定なので、当然と言えば当然であります。

 ここに関して保健所は、実は何の権限もありません。

 必要に応じて、「お願いベース」で公表の同意を得てからの公表となります。
 もちろん、公表した施設や医療機関にそれから行ったとしても、麻しんをうつされることは
 これはありえないのですが、
 「風評被害」を恐れて施設側が発表を拒む場合があります。

 それを強制的に公表する権限については
 今はエボラ出血熱やMERS、新型インフルエンザなど、より恐ろしい感染症で
 ようやく議論されているところです。

 実は私自身も行政医師として麻しん対応をした経験がありますが、
 患者の発生した自治体名をつい、市町村レベルで「ポロリ」してしまったことがあります。
 (ふつう公表するのは、どの保健所管内か、までです)
 周囲の職員の顔色が一瞬で変わり、すぐさまフォローが入りました。
 それだけ情報の管理には気を遣っているのです。

 麻しんの法的な位置づけですが、「五類感染症」に定められています。

 感染症法で定める感染症には一類~五類と、「新型インフルエンザ等感染症」があります。
 一類は、有名なエボラ出血熱や、クリミア=コンゴ出血熱、ペストなどの致命的な病気、
 二類は、MERS、鳥インフルエンザの一部、結核など一類ほどではないけれど重い感染症、
 三類は、腸管出血性大腸菌O157のように、感染者の就業制限が必要になる感染症
 四類は、主に動物由来の感染症(E型肝炎や、エキノコックスなど)
 五類は、それ以外で指定する理由のあるもの(多数)
 で、感染症法上の麻しんは五類ですので、
 「その他大勢の一つ」という扱いでしかないのです。

 うち、患者に入院勧告(および措置)権限があるのは一類、二類のみで、
 あとは一~三類で就業制限が認められていますが、
 それと新型インフルエンザ特措法による対応以外には
 保健所(都道府県知事)が感染症患者に対して行動制限を加える法的根拠はありません。
 調査権限については感染症法で認められていますが、
 調査した結果を公表するための基準はありません。

 したがって、当事者の同意のもと、調査を行った保健所の判断で
 患者の移動範囲や、利用施設名を公表したりします。
 しかし、ここで当事者に公表を拒まれた場合、
 公表をかりに強行したとしたら、
 もう結果は火を見るより明らかです。

 これをお読みのみなさんが仮に麻しんにかかった患者だとして、
 行動の中に、「こっそり浮気をしてラブホテルに入っていて2人とも発症」とか、
 「今の勤務先のライバル会社にヘッドハンティングされていて、内緒でそちらに面談に行っていた」とか、
 「DV被害者で夫から逃げるのに新幹線を使った」とか、
 「内緒で性感染症を治療するために同じ日に同じ病院の泌尿器科を受診していた」とか、
 とにかく人に知られたくない事情があった場合に、
 保健所が行動履歴を公表したことで、個人が特定されて
 不都合なことが起こってしまった場合を考えてみてください。
 それが自分だったらと…。

 たとえ名前や居住地を秘匿していようが、行動履歴と性・世代だけで個人を特定できることは
 現実的にあり得ることであって、
 それによって個人に取り返しのつかない損害を与えてしまうこともありうるのです。
 だから、どんな感染症でも、個人や施設の特定につながる情報の漏出には
 どこの保健所でも慎重になります。

 これまで読んできた皆さんにはもうわかると思いますが、
 医療機関が自分から「公表を申し出る」ということは、
 保健所からしてみれば願ってもないことです。

 それを「公表しないよう伝える」ということが、
 果たして現実的にあり得るものなのか、というところが
 報道の方をむしろ疑問に感じた一番の理由です。

 むろん、これまで保健所が公表してきた情報との齟齬による混乱を避ける目的で
 公表前に事前の情報共有を求めたり、記者レクに保健所職員の同席を求めることは
 これはありうることです。

 なので、報道を見たときに思ったのは、
 保健所は情報共有の準備を整えていて、それが終わるまで待ってくれという意味合いの話をしたのか、
 あるいは、患者個人の情報につながる情報にリンクする情報が含まれるため、
 当該患者の同意というか合意が得られるまで公表を待つことを勧めたのか、
 あるいは、単純に病院の風評被害を心配して「まだ公表には及ばない」と考えたのか…(もしこれならちょっとまずいですが…)

 いずれにしても、保健所には病院が麻しん患者の受診を公表することについて、強制する権限もなければ、やめさせる権限もありません。
 これについては報道で保健所側のコメントとして記されていた通りです。

 ただ、麻しんのまん延防止の観点から言えば、公表を止めることに全く利はありません。
 情報を秘匿する利益が、保健所にはないのです。

 以上が「公表を止めたとはにわかには信じがたい」理由です。

 結局今わかっている確実なことは
 「『保健所が麻しんを公表しないよう病院に伝えた』という報道がされた」という「事実」だけです。

 本当に「公表をやめるよう」伝えたのであれば、法的にはともかく
 感染症対応としてはやはり問題だとは思います。
 なのでことさらに保健所を擁護するつもりはありませんが、
 感染症に対する一つの事実を、公権力をもった「役所」である保健所が公表するためには、
 多くの検討と手続きを経る必要があることはご理解いただきたく思います。

 そして、最後になりますが、
 皆様も不幸にして麻しんにかかってしまうかもしれません。
 予防接種を2回受けていても「修飾麻しん」といってやはり感染の可能性は0ではありません。
 しかし、麻しんの感染性をこの文を読んで知っていただいた皆さんには、
 是非、情報共有に協力してほしいのです。

 もちろん、医療機関や大規模で不特定多数が出入りする施設のオーナーさんもそうです。
 きちんと保健所を味方につけて、風評被害が起こらない公表の仕方を考えれば良いのです。
 情報公開をちゃんと行った施設は、
 「ここの施設や医療機関はこんな早い段階で公開するとは危機管理のあり方として素晴らしい」
 と賞賛されるべき施設です。
 むしろ今の時代、下手に秘匿してあとでわかった方が、組織防衛上も
 よほど損失が大きいはずです。

 いったん始まった麻しんのアウトブレイクを終息させるには
 保健所の力は絶対に不可欠です。
 しかし、こんなタチの悪い感染症、保健所の力「だけ」では
 対応はできません。
 住民の皆さんや医療機関も含めた各施設の協力はどんな場合でも必要です。

 麻しんは、本来すでに今の日本には「ない」病気です。
 対応の経験者としてお願いします。
 終息に向け、何卒皆様のご協力をお願いします。

 そして厚生労働省には、
 麻しん対策のための情報公開、情報共有について
 ガイドラインなどと現場に権限を伴わず責任だけを負わせるような小狡いものではなく、
 感染症法改正など、より実効性のある制度改正を切に願うものです。

 そしてもう一つ、麻しんおよび風しんワクチンの接種率向上に
 皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

 

【公衆衛生医のお仕事27】北海道胆振東部地震と災害時の公衆衛生

9月6日午前3時8分 厚真町の震度7を最大震度とする地震が発生し、全道が停電しました。

現時点(9月8日朝8時)で、道内99%が停電から回復しておりますが、
いまだ停電の続いている世帯や、避難中の世帯もあり、
また揺れの大きかった地域では行方不明者の捜索も続いており、
まだ災害急性期は終わっていません。

私の勤務地域は全道でおそらく最も揺れの小さかった地域ですが、
それでも保健所や振興局は停電対応に追われ、昨日(7日)の夜、
ようやく自宅待機体制となり、自宅(公宅)に帰宅できました。

実は単身赴任元の家族の住む地域(札幌市東区)は震度6弱だったのですが、
いろいろあってあと2週間くらいは帰れなさそうです。
ちょっと自分と家族の人生について考えてしまいましたが、
こういう仕事なので、しょうがないと腹を括って次に進むしかしょうがありません。

今回は「全道住民」が被災者となったわけではありませうが、
まずは亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、
負傷者のみなさま、現在も避難生活をしていたり、後始末に追われている
被災中心地住民のみなさまに心よりお見舞い申し上げます。

こちらはほとんど揺れがなかったため、停電で目が覚めました。
枕元のスマホを見ると、胆振東部で震度6強とニュース速報が出ており、
同時に停電が起こった理由まで思いが至らなかったのですが、
どうも全道が停電しているらしいことが判明し、
保健所の職員より電話があり、
道庁本庁および振興局に災害対策本部が立ち上がり、
第3非常配備(全員出勤)が発令されたと連絡があったのですぐ出勤しました。

私の役割は
1,災害対策本部の本部員としての役割と
2,担当部署(保健所)の長としての役割、
3,振興局保健環境部長として管内に3箇所ある保健所を総括する役割の
3つでした。

情報収集・分析にあたり、不足する社会資源を整理し、
それを災害対策本部に上げ、需給バランスの調整をはかることが
核になる部分ではありますが、
災害時のリーダーは誤解を恐れずいえば、
「いかに何もしないか?」がポイントとなります。

私自身が実際にやった仕事といえば、
初動でまだ集まった人数が少ない段階の体制を組み
クロノロ(経時的記録)の書き方を知らない職員に指南し、
情報整理のやり方を職員にさっと教えたあとは、
人が大体そろってくると
大きな部分の決断と、
どうしてもリーダーや医師が出ないといけない外部との調整作業、
会議でのプレゼンテーションや説明を除いては、
職員と話す、励ます、適宜休みを指示する、
優先度の高い仕事だけ直接指示する、
時々EMIS(災害時医療情報システム)の使用法を職員が困ったときに教える、
急ぐときは自ら代行入力する
自分の身の安全を第一に考えるよう指示する、
生き残った検査室の冷蔵庫用の電源を使用して
携帯などを充電するための充電器とケーブルを提供する、
ぐらいの仕事しかやっていません。

うちの職員も大変な中、本当にがんばって業務に当たってくれました。
皆様に心より御礼申し上げます。

あとは、その合間を縫って、停電のためにあまりコミュニケーションのとれない
管内他保健所の所長への情報共有でした。
これが一番手間がかかりました。

電話口頭での報告もいいのですが、
電話よりメールの方が正確性が高く
(言った言わないの問題が避けられ)
かつ通信手段の問題で電話よりはるかにコンタクトがとりやすいということもあり、
管内他保健所の所長とコンタクトがとれることの確認後は
(これは真っ先にやったことの一つです)
全て私用メールでの連絡としました。
コピー機も職場のPCも使用できないため、
自分の携帯とノートPCを持ち込み、
情報を整理して要点をテキストの手打ちにしたり、
メモを写真に撮って送ったり、この作業に意外に時間を食いました。

助けられたのは、当地の災害医療の重鎮である基幹病院の医師が
大学の同級生で、とてもコンタクトがとりやすかったことです。
彼は日頃からうちの職員にも一定の支持を得られており、
そのことで医療側との情報共有や調整が本当に楽で、
本当に助かりました。

管内の医療については、現場の医療機関職員のみなさまが必死で動いてくれたおかげで、
CTやX線装置が働かないとか医薬品などの在庫に問題があったりなどの制限の中で、
完全休診をほとんどの病院が回避したことは特筆に値します。
この場を借りて現場病院職員のみなさまに御礼申し上げます。

一方で、診療所は休診になってしまったのがかなり多かったですが、
これはマンパワーなどを考えるとやむを得ないところがあります。

揺れが少なかった当地で最大の問題となったのが人工透析ですが、
透析施行施設どうしがしっかり連絡をとりあっており
(時々保健所が情報共有に介入しつつ)
停電が長期化した場合の透析患者大量移送などの可能性を考慮しながら
最終的にはそのような最悪の事態には至らず
ほぼ全医療機関の電源回復まで乗り切ったこと、
これも現地医療機関職員のみなさまに感謝しかございません。

一方で、緊急時・急性期の臨時電源や発電用燃料の確保、
(病院外での地域の)備蓄や優先度の検討という点では
一定の課題を残したものの、そちらはとりあえずあとの振り返りでの検討事項であり、
まだ振り返る段階ではないので、いまあるもので進むしかないでしょう。

現在は、管内の主要医療機関はごく一部を除いて送電が回復し、
超急性期は乗り切ったというところです。

実は、本庁から声がかかり、週明けから、
被災中心地である、苫小牧保健所や、厚真町のヘルプに入ることになっています。
いわゆるDHEATと呼ばれる業務であり、
ここらへん、DHEATとは何か、詳細に解説している余裕までは今はまだないので、
長崎から西日本豪雨に人が派遣された事例ですが
https://www.ncctv.co.jp/news/56263.html
をご覧ください。

また帰ってきて、少し落ち着いた時点で、
できる範囲で災害時の公衆衛生について書きたいと思います。

被災地のみなさんはもうすでに頑張っているので、
今更「頑張れ」とは言えません、
ところどころで休みをとりながら、何とかまずは災害急性期を乗り切りましょう。

【公衆衛生医のお仕事26】災害時の公衆衛生

西日本が大雨で大変なことになっています。
いまだ、被害の全容すら明らかになっていません。

犠牲になった方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、
市民生活の一日も早い正常化をお祈りいたしております。

今日のエントリーでは、今週私の勤務する地域で行った
防災関連の研修についてアップする予定でしたが、
その裏で本物の大災害が起こってしまったので予定を変更して
災害時の公衆衛生活動についてアップします。

https://www.nbc-nagasaki.co.jp/nbcnews/detail/1252/
長崎県から岡山県に派遣されたDHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)の報道です。

発災後の急性期には、
・医療機関そのものが被災する(職員が出てこれない、建物が浸水したり倒壊したりする)
・医療機関への医療機材や食料等の供給が、交通障害等のために絶たれる
・負傷者が医療機関のキャパシティを超えてに大勢押し寄せる。
 更に上記の状況が重なり、医療需要と供給のアンバランスが起きる。
・医療機関や行政との情報伝達が不足しているため、患者があふれパンクしている病院と
 余力があるのに患者の少ない病院が出てきたりする。
・多数発生した重症患者が、地元の高次医療機関だけではさばききれない
などの問題が発生します。

これら状況による「回避可能な死」をなくすことを目的に結成されたのが
DMAT(災害時医療支援チーム)です。
発災後超急性期~急性期(大体72時間程度)をめどに、
自県や他県から被災地に派遣され、
・重症度によって患者を振り分けるトリアージ(Triage)、
・傷病者の初期治療(Treatment)
・圏内でさばききれない重傷者を圏域外に搬送(Transport)
という役割を担うチームです。

一方で、生き残った人たちにも難儀な状況が待ち構えています。
・医療体制が破壊されてしまい、高血圧や糖尿病などのかかりつけの医療が受けられない。薬が足りないのに処方が受けられない。
・避難所の居住環境による病気の発生(感染性胃腸炎やインフルエンザなど)
 (トイレ不足・使用不能→飲水控え→脱水・熱中症)
・自家用車に避難、寝泊まりしている住民の深部静脈血栓症(いわゆる「エコノミークラス症候群」)
・食事の問題(栄養の偏り、食中毒など)
・津波や洪水などで浸水した家屋の消毒
・被災者の心のケア

などの、公衆衛生上の問題が起き、これらも
「回避可能な災害関連死や永続的な障害」の原因となることが
東日本大震災を機に認識されることとなりました。

もちろん、普段から保健所や市町村の保健師さんらは
住民の健康管理、感染症・食中毒の予防や、精神保健の相談を受けていたりするわけです。
ところが、いったん災害となると、それらがどっと押し寄せてきます。
そんな時には地元の役所や保健所、保健師さんや担当職員も被災していたり、
そもそも必要な仕事の絶対量が多すぎて
例えば避難所一つとっても、地元保健師さんには回りきれないとか、
行政管理栄養士や行政薬剤師などはさらに足りなくて対応しきれない状況になります。
ただ、災害時の公衆衛生については、平時の公衆衛生の延長線上にあるものがほとんどで、
そのやり方をある程度ルーチン化して公衆衛生面からの支援を行うために
厚生労働省、日本公衆衛生協会、全国保健所長会などが検討を重ね
この3月に制度化されたのが
DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)です。
公衆衛生医師、保健師、薬剤師、管理栄養士、事務員などがチームを組みますが、
DMATとの大きな違いは、DMATはそのチームのままで動きますが、
DHEATは「溶け込み支援」といって、
被災地の保健所に入り込み、構成員はバラバラになってそれぞれ必要な仕事をします。

その中で、避難所の巡回を手伝ったり、地元スタッフとともに公衆衛生対策を考えたり、
地元保健所の手足となって情報収集に走り回ったり、市町村に対して技術支援を行ったり、
多様な業務をこなしていきます。

災害時の公衆衛生と隣接する分野の支援として、
他に、心のケアに携わるDPATや、リハビリに携わるDRATなどがありますが、
ここでは割愛します。

私は今回この件で直接に支援にかかわることはないと思いますが、
こういう動きがあって、現地に行った公衆衛生支援チームが
どんな活動をしているか知っていただけますと幸いです。

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