医療マスコミ論

公衆衛生上の研究成果を個人や特定・不特定の集団を攻撃するネタに使用してはならない。

みなさんご無沙汰しております。

ここ1ヶ月位、いろいろ忙しかったりしました。

何に忙しかったかというと、試験勉強、それから、公衆衛生協会の事業の仕事、
そして、ちょっとした趣味です。

あと、災害対応もありました。

こちらは、保健分野では大掛かりな災害対応は
少なくともうちの管内では不要でしたが、

十勝や南富良野などでは、支援が必要な状況であったようです。

道内の道路網寸断状況もまだまだ続いています。

一日も早い復旧を願っております。

え?試験勉強?なんの?

総合内科専門医のです。
一応、今後何らかの理由で臨床に戻る可能性もなきにしもあらずなので、
専門医制度への制度移行によって、とりやすくなっている今しかないなと。

結果…ですか?

いや、その…

受験すら出来ませんでした。
なにしろ、試験日に「第2非常配備」が発令されていたので…

まあ、しょうがありません。
試験に来年があっても、自然災害対応に来年はありませんから。


さて、本題に移ります。

某フリーアナウンサーの透析に関する発言がいろいろ物議を醸しています。

今回、このブログでその発言を責め立てるつもりはありません。

ただ、そのような発言をさせてしまった背景には、
我々医療従事者の不用意な発言があったのでは…とも思うのです。

糖尿病は早期から厳格な治療を行えば、
合併症の発現率が下がる、これはもう周知の事実です。

ただ、早期を過ぎて治療をすると、
無理に厳格な治療をすると却って逆効果になる場合もある
なんてことも知られるようになりました。

また、低血糖と虚血性心疾患の関係なんかも言われるようになり、
ただ厳格な治療をして、検査数値を下げればいいのではないということも
だんだん知られるようになっていきました。

我々医療従事者が、個々の患者さんに「我慢」を強いるには
それ相応のエビデンスが必要になります。

それぞれの患者さんが大事にしているものだってあります。
いかに「我慢をさせないか」ということを
考えながら仕事をしている臨床医がほとんどと思います。

そんな中ですが、
私もついつい臨床現場では
「あなたのような人が大勢いて、保険財政を圧迫しているのです!」
なんてきついことも言ったことも、正直ありました。

「あんな奴(ら)に医療なんか必要ない」とついつい心で思ってしまい、
反省しきり、自己嫌悪になってしまい、自分の医師としての適性を考え直す
なんてこともしょっちゅうでした。

でも、これは少なくとも表立って発言しちゃいけないことなんだと反省するとともに、
そういった発言を衆人環視のネット上で行うことは厳に慎まなければならないと、
公衆衛生を専門とする者として、戒めなければならないと、あの記事を見て感じました。

たいてい、臨床での研究の成果というのは、
ある集団と対照集団を比較して、
ある事象が起こる確率や、特定の検査数値に違いがあるかどうかを判定することによって
もたらされます。

そして、心ある臨床家たちは、
その結果を個人に適用するのに、細心の注意を払います。

EBM(Evidence Based Medicine)といいますが、
たんに、文献を批判的に読んで、批判に耐えうる内容であれば
そのまま目の前の患者さんに適用してよいというのとは違います。

むしろ、そういった文献や研究成果を
目の前の患者さんにどう適応するか、ということを考えるのが
EBMであります。

我々公衆衛生に携わる者にとっても、
データを駆使して、集団を健康に導くことが
大きなミッションの一つであります。

その中で、私が今「絶対にやってはならないこと」として戒めているのが、

公衆衛生上の研究成果を、ある特定・不特定の集団や個人を攻撃するネタに使ってはならない。

ということです。

こんど、出身大学の後輩が地域保健を学びに、私の勤務先に来る予定ですが、
なによりこのことを教えようと思っています。

たとえば2型糖尿病の患者さんだって、
同じ食生活を送っていて、糖尿病になる人もいれば、透析になる人・ならない人もいて、
あるいはまったく問題なく人生を全うする人もいます。

ここらへんは、専門家たちが日々分子生物学的研究を続けている、まさにトピックなところです。

ある集団と対照を比較して、生活習慣に有意差があったからと言って、
それを理由に集団を叩く、というほど医学研究は単純なものではありません。

むしろ、

個々の身体のもつ要素があまりに多く複雑すぎるので
集団同士の比較によってしか医学的知見を得られない

というのが正直なところです。

私も、そのフリーアナウンサーの発言には強い憤りを覚えた一人ではありますが、
そのアナウンサーの発言を責めるより先に、
そういった発言や差別を助長するようなことを
我々医療従事者がやっていないか、
大いに猛省すべき、ということを考えさせてくれた記事と、私は思いました。

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