医療マスコミ論

「非公表」がデフォルトで、「公表」が当たり前ではありません。(自治体情報公開チキンレース合戦に思う)

新型コロナの道内1例目発生以来、初めて一日お休みをいただきました。
所管地域の一部がホットスポット化しつつあり、知事から「緊急事態宣言」まで出てしまった状況の中で
いろいろなことに心を痛めながら関係者の一人としてなんとか事態の収束をと日々奔走しています。

久しぶりにお昼まで寝ていようと思ったのですが、朝から結構な頭痛があり、起き出してしまいました。
ロキソプロフェンという文明の利器のおかげで、今はなんともありません。
今日一日は知事から外出自粛要請もあり、自宅でゆっくりしていようかなと…。どうせ何かあればすぐ呼ばれるのだし。

それはそうと、このコロナパニックの中で、全国の自治体が首長さんまで巻き込んでの「個人情報公表合戦」の様相を呈しており、
プライバシーとの兼ね合いで「いかに速く、どこまで公開できるか」のまさにチキンレースになっています。

大変、空恐ろしい事態になっていると感じています

私としては、いずれどこかの自治体が個人から訴えられる日が来るのではないかと戦々恐々としています。

このチキンレースに破れた自治体には、もれなく記者会見におけるマスコミの猛攻撃が待っています。
詳しくは、NHKニュースサイトの記者会見生配信をご覧になっていただければ、よ~くわかるかと。

で、厚労省事務連絡も出てきました。
一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本指針」(PDF)
二類感染症に準じる特定感染症であるCOVID-19も、これを踏まえるそうです。
各自治体からも、国に対してどこまでの情報公開をすべきかガイドラインを作るべきだとの
声が強くあり、それに厚労省が応えたものとも言えます。


さて、ここで整理すべきを整理しておきましょう。

刑法第134条第1項
「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」

国家公務員法第100条第1項
「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」

地方公務員法第34条第1項
「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。」

行政機関個人情報保護法第7条
「個人情報の取扱いに従事する行政機関の職員若しくは職員であった者又は前条第二項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者は、その業務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。」

自然災害や公務員の不祥事などにおけるリスクコミュニケーションでは、
「隠し事をしない」「言えることは全部言う」、その中で「言ってはいけないことを選別する」というのが基本です。
しかし、医療に関しては私は考え方が逆と思っています。

基本、今公表されている情報は、「全て言ってはいけない情報」なのです。
その中で情報をセレクトして、本人・家族にマスコミ開示の許可を得て、公衆衛生上必要な最小限の情報を出す、
というのが医療における個人情報公開の本来あるべきスタンスなのです。

ここが他の行政情報と、医療に関する情報の大きく違うところです。

これを勘違いして、
「出すのが当たり前」と思っている人が
あまりに多く辟易とします。

今回のコロナ事案に関して情報公開のあり方について上司(非医療職)とdiscussionをしたときに、
これを少しヒートアップしてお話してしまったのですが、
いやでもね、これ、医療は違うと言っても一般にはわからないよ。言わないと。
そう言われてしまいました。

本当に、そのとおりと思いました。上司の言う通りです。
このことを、誰も言ってないんです。
どうです?恐ろしいでしょう?コロナよりずっと。

なら、今まさに当事者の一人となっている私が言います。

医療情報はほぼ全てが個人情報です。
それを公表すること自体が「本来はいけない」ことなのです。犯罪なのです。
それを公衆衛生上の必要性と比較考量しながら、
本人・家族の許可を得て、違法性を阻却した上で「必要最低限」の個人情報を発言しているのです。

厚労省も感染研も、どこの自治体もそうだと思います。
それが当たり前なのです。
決して、公表するのが当たり前なのではありません。
「言えることを最大限に全部言う」のは、法解釈上も間違っています。
「出すのが当たり前」ではなく、
「隠すのが当たり前」なのです。

今一度、そこを認識いただいた上で、マスコミの皆さんにも情報収集にあたっていただきたいですし、
マスコミ情報に触れる一般の皆様にもこれは本当に十分に認識していただきたいと思っています。

私も、このコロナパニックでは、「現場に近い当事者」の一人になってしまいましたので、
(いつ「現場」になってしまうかはわかりませんが…)
一日も早い収束を目指して、知事の言うように「やれることは全部」やっていきたいと思っています。
改めまして、道民・そして国民のみなさまのご協力を、よろしくお願いします。

公衆衛生上の研究成果を個人や特定・不特定の集団を攻撃するネタに使用してはならない。

みなさんご無沙汰しております。

ここ1ヶ月位、いろいろ忙しかったりしました。

何に忙しかったかというと、試験勉強、それから、公衆衛生協会の事業の仕事、
そして、ちょっとした趣味です。

あと、災害対応もありました。

こちらは、保健分野では大掛かりな災害対応は
少なくともうちの管内では不要でしたが、

十勝や南富良野などでは、支援が必要な状況であったようです。

道内の道路網寸断状況もまだまだ続いています。

一日も早い復旧を願っております。

え?試験勉強?なんの?

総合内科専門医のです。
一応、今後何らかの理由で臨床に戻る可能性もなきにしもあらずなので、
専門医制度への制度移行によって、とりやすくなっている今しかないなと。

結果…ですか?

いや、その…

受験すら出来ませんでした。
なにしろ、試験日に「第2非常配備」が発令されていたので…

まあ、しょうがありません。
試験に来年があっても、自然災害対応に来年はありませんから。


さて、本題に移ります。

某フリーアナウンサーの透析に関する発言がいろいろ物議を醸しています。

今回、このブログでその発言を責め立てるつもりはありません。

ただ、そのような発言をさせてしまった背景には、
我々医療従事者の不用意な発言があったのでは…とも思うのです。

糖尿病は早期から厳格な治療を行えば、
合併症の発現率が下がる、これはもう周知の事実です。

ただ、早期を過ぎて治療をすると、
無理に厳格な治療をすると却って逆効果になる場合もある
なんてことも知られるようになりました。

また、低血糖と虚血性心疾患の関係なんかも言われるようになり、
ただ厳格な治療をして、検査数値を下げればいいのではないということも
だんだん知られるようになっていきました。

我々医療従事者が、個々の患者さんに「我慢」を強いるには
それ相応のエビデンスが必要になります。

それぞれの患者さんが大事にしているものだってあります。
いかに「我慢をさせないか」ということを
考えながら仕事をしている臨床医がほとんどと思います。

そんな中ですが、
私もついつい臨床現場では
「あなたのような人が大勢いて、保険財政を圧迫しているのです!」
なんてきついことも言ったことも、正直ありました。

「あんな奴(ら)に医療なんか必要ない」とついつい心で思ってしまい、
反省しきり、自己嫌悪になってしまい、自分の医師としての適性を考え直す
なんてこともしょっちゅうでした。

でも、これは少なくとも表立って発言しちゃいけないことなんだと反省するとともに、
そういった発言を衆人環視のネット上で行うことは厳に慎まなければならないと、
公衆衛生を専門とする者として、戒めなければならないと、あの記事を見て感じました。

たいてい、臨床での研究の成果というのは、
ある集団と対照集団を比較して、
ある事象が起こる確率や、特定の検査数値に違いがあるかどうかを判定することによって
もたらされます。

そして、心ある臨床家たちは、
その結果を個人に適用するのに、細心の注意を払います。

EBM(Evidence Based Medicine)といいますが、
たんに、文献を批判的に読んで、批判に耐えうる内容であれば
そのまま目の前の患者さんに適用してよいというのとは違います。

むしろ、そういった文献や研究成果を
目の前の患者さんにどう適応するか、ということを考えるのが
EBMであります。

我々公衆衛生に携わる者にとっても、
データを駆使して、集団を健康に導くことが
大きなミッションの一つであります。

その中で、私が今「絶対にやってはならないこと」として戒めているのが、

公衆衛生上の研究成果を、ある特定・不特定の集団や個人を攻撃するネタに使ってはならない。

ということです。

こんど、出身大学の後輩が地域保健を学びに、私の勤務先に来る予定ですが、
なによりこのことを教えようと思っています。

たとえば2型糖尿病の患者さんだって、
同じ食生活を送っていて、糖尿病になる人もいれば、透析になる人・ならない人もいて、
あるいはまったく問題なく人生を全うする人もいます。

ここらへんは、専門家たちが日々分子生物学的研究を続けている、まさにトピックなところです。

ある集団と対照を比較して、生活習慣に有意差があったからと言って、
それを理由に集団を叩く、というほど医学研究は単純なものではありません。

むしろ、

個々の身体のもつ要素があまりに多く複雑すぎるので
集団同士の比較によってしか医学的知見を得られない

というのが正直なところです。

私も、そのフリーアナウンサーの発言には強い憤りを覚えた一人ではありますが、
そのアナウンサーの発言を責めるより先に、
そういった発言や差別を助長するようなことを
我々医療従事者がやっていないか、
大いに猛省すべき、ということを考えさせてくれた記事と、私は思いました。

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