新聞記事から考える医学

「守って当たり前」に感じた違和感(道新「卓上四季」の記事から)

守門人-北海道新聞[卓上四季]
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/fourseasons/549233.html

道内で全国紙をこえて最大のシェアを誇る「北海道新聞」のコラムです。

ライフラインの維持や医療をサッカーのゴールキーパーになぞらえて

「守って当たり前」としている記事なのですが、

現実考えると、なかなか辛いものがありますね。

同じサッカーでも、全員がよりすぐりの選手ならともかく、

自分(医師)だけはなぜか給料分不相応にいっぱいもらっているけど、

肝心のチーム強化費はギリギリ以下に絞られ、

フィールドに出ている自軍選手の半分くらいがサボタージュかまして、

ときにオウンゴールまで決めちゃう状況の中、

取りこぼしをすると、観客席からゴールめがけて石が飛んでくるような状況の中、

それでも「高い給料もらっているのだから、守って当たり前」と言われながら

必死で頑張っている医師も、北海道の僻地では多いんじゃないかと思います。



また、もう一つ

離島と透析医療のエントリーでも書きましたが、

この執筆者の方もたぶん

「どこでもやっている」=「簡単にできる」→だから守って当たり前

という勘違いをしているのかもしれません。

これは明確に違うということを、改めて言っておきます。



日本代表のGKと同じくらいの気概をもって働けと言いたかったのでしょうが、

このたとえには、正直強い違和感を感じざるをえませんでした。

胸痛発作に関して(追記)

<医療事故>当直医に専門性要求は酷 福岡高裁

今回の訴訟,判決が出たようです.

「当直医は内科医で、急性心筋梗塞(こうそく)の診断や治療経験がなく、循環器の専門医と同等の判断を要求することは酷」

診断(というか急性冠症候群としての拾い上げ)の非常に難しい症例であったことが,裁判でも認定された,ということになります.

弁護人→「地域医療の限界をくみ取ってくれた画期的な判決」

判決そのものは,私も妥当と思います

しかし,できれば弁護人のコメントの前に「現時点での」と付け加えてもらえればよかったかと個人的には思っています.

限界というのは,まず認識して,その後はそれを超えるための頑張りを要求するものと思っています.

そのために,我々は日々症例レビューや,CPC(臨床病理カンファランス→不幸にも助けられなかった患者さんを解剖させていただき,その結果から診断・治療の問題点を専門的に議論する会議)などで研鑽を積んでいます.

本当に再発防止を考えるなら,今回のような症例は,訴訟ではなく,こういった場で議論すべきものではなかったかという意見も臨床医の中には根強くあります

臨床医学は,その始まりからこのような貴重な犠牲のもとに少しずつ発展してきた,ということは誰にも疑いようのないことと,思います

もちろん,だからといって,患者さんの犠牲を正当化していい道理は,どこにもありません.

この訴訟を教訓として,今後我々がなすべきことは,「心電図の自動解析が拾い上げられない異常もある」ということを認識して,次に同じような患者さんが来たらこの認識のもとに診療を進めていくことであり,そうでなければ亡くなられた患者さんは浮かばれません.

どうぞ,地域医療に限界があるからといって,絶望しないでください.我々は常に,その限界を少しずつ高めていけるよう,日々努力しています.

末筆となりましたが,亡くなられた患者さんのご冥福をお祈りして,この稿を終えたいと思います.

胸痛発作に関して(3)

急性冠症候群に関しては,今回の記事とは関係ありませんが,さらに恐ろしいこともあります.今回は自動判定で微妙な心電図変化を所見として拾うことができなかったということですが,さらにショッキングなのは,

心電図所見が全く正常な急性冠症候群もある

ということです.

これはかつて私が循環器内科の研修を受けていた頃に厳しく教えられたことで,心電図が正常だからといって心筋梗塞は否定できない.結局は症状の性質と経過が大事,だから患者さんからきちんと話を聞くことが大事,ということでした.

さて,他にも肺動脈塞栓症,急性大動脈解離について…

一般的にはこの2疾患は,「夜間であっても緊急造影CTが必要な疾患」として玄人筋には知られています.

前者は,何らかの原因(たとえば足の静脈血栓が飛んだりなど,有名どころではいわゆる「エコノミークラス症候群」)で血栓が肺の動脈に詰まる病気で,急激な胸痛,呼吸困難をきたして,場合によっては酸素のとりこみがうまくいかなくなって死に至ることもある重大な疾患であり,

後者は,心臓から全身に血液を送る大動脈の壁の一部が2層に裂けてしまい,末梢側の血流障害をきたすことから,心筋梗塞,脳梗塞,腹腔動脈閉塞,腎梗塞などにいたるこちらも重大な疾患です.

しかし,肺塞栓については,これは非専門医には非常に診断が難しい疾患として知られており「まず疑うことが大事」という指導がされるくらいのものであります.

大動脈解離については,典型的なものならばCTで診断がつきますが,そうでないものについては過去に訴訟になった例もあります.

私も今回のきっかけで勉強して知ったのですが,「早期血栓閉塞型急性大動脈解離」と呼ばれるタイプの疾患の中には,CTでも典型像を示さず非常に診断が難しい例があり,さらには通常大動脈解離の診断には造影CTが必須とされるのですが,このタイプの大動脈解離では,単純CTの撮影も必須である,ということでした.

ときに病気は人間に対し,とても意地悪な仕打ちをします.今回「見逃し」について例を挙げた3疾患は,見逃した際に起こりうる結果から,over diagnosis(過剰診断)が許される疾患,とされています.

従って,胸部疾患の専門医不在の施設でこれらを疑い,そして診断困難であった場合には,たとえ後方病院が100km,200km離れていようが,海の彼方,島の彼方,だろうが,転院搬送とせざるを得ません.そして,そういう患者さんは一定の割合でどこにも必ず存在します.

多少「やりすぎ」の感も否めないかもしれませんが,このような転院搬送に際してもご理解をお願いしたく思います.重篤な病気が「わからないから」搬送するのではなく,「否定できないので」搬送するのですから….

胸痛発作に関して(2)

そもそも胸痛発作に関しては,まず来院後すぐにやらなければならないのは,

急性冠症候群(急性心筋梗塞と不安定狭心症),緊張性気胸,肺動脈塞栓症,急性大動脈解離

この4大致死性疾患の鑑別です.

私も含めて救急に携わる全ての医師が,最も恐れ,鑑別診断としてまず優先する疾患であります.見逃した場合のダメージが非常に大きいからです.

この中で,とくに問題となるのは緊張性気胸以外の3疾患における「見逃し」です.

今回の記事は,急性冠症候群についての問題でした.

急性冠症候群の診断は,一般的にはまず心電図,そして心筋逸脱酵素と呼ばれる血液検査が行われます.ただ,血液検査では結果判明までの時間のロスがあるため,まずは心電図で異常がないかどうかを確認します.

今回の訴訟で問題となったのは,この心電図所見についてです.

実はこの訴訟,記事を読む限りにおいて心電図所見の「有無」については,争点になっていません.心電図の自動解析装置で「異常なし」と判定されたが,実際には微妙な変化があった,ということが前提の論争になっています.

※実はここらへんの議論で不明なところがあって,ひとつには前回心電図との比較が可能であったのかどうか,可能なのにしなかったのか,それとも医師が前回心電図との比較を怠ったのか,あるいはカルテ庫奥深くに眠っている,などといった理由で心電図が医師が求めても出てこなかったのか(現実の救急では非常に残念ながらこういうことがあります.情けない限りですが,これは病院の事務レベルで解決すべき問題と思います).で,この微妙な変化というもの,いわゆる「急性期T」とよばれる変化を自動解析装置が読み取れなかったのか,それとも脚ブロックなどの心筋虚血の有無判定を邪魔する要素があってST変化をうまく読み取れなかったのか,などそのあたりも不明ですし…記事のみからでは過失の有無はなんとも判断できないというのが正直なところです.

病院側主張→専門医でなければわからないような所見を読むことを専門外の医師に求めるのは過大要求であり,当直医を確保するのがやっとという現状でそれを求められれば地域の医療崩壊にさらに拍車をかける.

原告→この施設には循環器の医師もおり,適切な措置を講じていれば救命できた.

とのことであり,さらには「血液検査,超音波検査をすべきであった」という記載もあったので,もしそれをしていなかったのだとすれば,病院にとっては厳しいかもしれません.

過失の有無に関しては係争中なので何ともいえませんが,この病院側の主張では,「では専門医不在の地域の住民は,都会では専門医の診察で助かるかもしれない命をあきらめろと言うことか!」という根本的な議論を惹起してしまうことを危惧します.

そこは常に地方の非専門医が,背中に背負っているプレッシャーの正体そのものであり,その差を埋めるために日々地域の医者は必死で頑張っているのですから!!!

胸痛発作に関して(1)

もうすでに日付は変わって昨日,

久しぶりに後方病院への救急搬送に同行しました.

最近では,ドクターヘリの導入に伴い,日中に救急搬送に同行する機会も激減しているのですが(実は私はこれがドクターヘリ導入の最大の利点と考えております),今回は悪天候でヘリが動かず,やむを得ず100km離れた後方病院まで,片道1時間半の道のりを同乗しました.

今回は,内科的精査にもかかわらず原因の全くわからない胸痛ということでの搬送でしたが,個々の患者さんについてはここで触れるわけにはいきません.

ネットでたまたま

こんな記事

を見つけたので,それにまつわる問題についての話です.

なお,当ブログでは,単にマスコミの失態を攻撃するだけで発展性のない議論は一切行わないことを旨とします.私自身はたまにそういう気分になることもありますが(((^^;,そういうのは他でやることとして(苦笑),ここでは,今後の議論につながるような話題にもっていこうと考えています.

訪問介護の限界について考える…

「不手際で死亡」 介護業者を提訴 釧路の男性遺族

こういった記事を見るとまず考えるのは、

ではどうすればこのようなトラブルを回避できたか…

記事によれば前日から体調不良を訴えて、介護職員に伝えたとのことであり、

翌日訪問するも施錠されており安否の確認ができず。で、この方は独居老人….さらにその翌日,訪問介護センター職員と警察官が鍵を開けて踏み込んだところ,残念ながらすでにこときれていた….という結末.

正直、病院に連絡されても非常に対応に困る。

おそらく警察などに連絡しても、簡単に鍵などあけてくれないだろうし、そもそも持病もある高齢者をどうして家族は独居させたままだったんだという問題もある。(もちろん家庭の事情もあるでしょうし、それが一方的に悪いと断じるつもりもありませんので誤解なきよう…)

あとは、家族を呼んで一緒に訪問して鍵をあけてもらうか…。そういう対応なら可能だったかもしれないが、そこまでやったのかどうか、この記事ではまったくわからない。そこが道新の道新たるゆえんでありますが…(苦笑)

翻って、我々の場合、こういった事例はどうしたらよいか…。体調不良が前もってわかっていたり、頻回フォローが必要な患者さんが予約に来ない場合はまず電話連絡(これは私も外来看護師に厳しくお願いしていますし、看護師さんもそれを理解してちゃんとやってくれています)。

しかし、それで電話に出なければそれ以上、何とも手の出しようがありません。したがって、独居老人の場合は入院の敷居をすごく低くとっています。ほとんど社会的入院としか言えないような(医療より介護の必要性がずっと高い)方もやむを得ず引き取る場合があります。

しかし、この場合、その後の患者さんの処遇に非常に困る場合が多々あります。独居は不能、家族は引き取れず、介護施設は年単位で待ち…。それらを考えることも、我々地方公立病院内科医師の仕事の一つになってしまっています。(それでも私の勤務先にはソーシャルワーカー(MSW)がいるのでまだ恵まれています。現実には公立病院なのにMSWを雇っていない病院などごまんとあります)

で、電話に出ない患者さんの話に戻りますが、たいていは後日になって、元気になってもう通院の必要を感じなかったために通院を自己中断したことがわかり、ほっとするのですが、その中に、今回のような症例が混じっている可能性もあるのです。

3日前の外来では多少具合が悪いながらも元気そうにしていて、急変の可能性など微塵も感じなかったのに、今日経過観察の外来に来なかった…。電話をかけても出ず、よくなったので来なかったのだろうとたかをくくっていたら、実は自宅で苦しくて動けなくなっており、後日家族によって冷たくなっているところを発見された…。

高齢者では実によくありそうな話です。ただ、これはある意味厳しいですけれど、医療側の責任を問われても100%はねつけるのは今のご時世厳しいかもしれません。

更に深い問題を抱えた方もいます.通院歴も何もない、あるいは通院を自己中断してしまってどこにもフォローされていない独居高齢者です。中には認知レベルが相当落ちている方もいますし、活動能力が著しく衰えた方もいらっしゃいます。

こういった独居高齢者に独居を続けさせるということは、たとえ何も病気がなくとも常に急変して誰も助けられない可能性を、家族が受容しなければならない、ということです。認知レベルの低下がないのであれば、本人にも同様に責任があります。厳しいですが、大人ですから…。

最後に、もし私が件の訪問介護業者なら、こんな訴訟が起こって今後どうするか…

独居老人は全例、

「いざというときは踏み込んでもよい」旨同意書をもらって、合鍵を預からせてもらう、

ということになるでしょうね。(実際やってるとこあるかな…?ひょっとして)

尊厳もクソもあったもんではありませんが、そこまでやらなきゃいかん世の中ということです。悲しいですが…。

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