地域医療

赤ひげ後遺症

後任探し振り出しに…存続危機の診療所、赴任予定の医師が辞退
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191204-00191307-kyt-l26

町がどういう条件を示したのかはわかりませんが、
ちゃんと赴任前に条件の折り合わせをして、最終的にはこういう結論に至ったという意味では
私は、町の対応を評価します。

こういうことすら言わないところが多いので。

また、これが都道府県立だったりすると、
地域の実情を知らない都道府県職員がこういう隠れた部分の説明をせずに(というか出来ず)
結局地元とトラブルになって短期間で辞めていくパターンも耳にします。

私自身は、1~2年スパンの勤務が多かったのですが、
どこに行くにしても、
自分が行った医療を引き継ぐのは誰か? 次の人は同じ医療や同じ勤務、同じ時間外対応ができるのか?
それを常に意識して働いてきたつもりです。

それがその地域の今後にかかわると思ったからです。

地域でよくある話で、
「SAMMY先生は、こんな時間でも文句一つ言わず出てきて診てくれたのに」
「SAMMY先生は、当番じゃなくてもちゃんと診てくれたのに」
それを自分がいなくなった後、住民に言わせたら、失敗です。
厳しいようですが、スタッフにそれを言わせても、やはり失敗です。
(その基準だと、私はひょっとしてどこかで失敗しているかもしれません。まあ、いなくなった後はわかりませんが…)

結果「やろうと思えばまあできないことはないけど、あえてやらない」ということもありました。
(個々の患者対応の話ではなく、システム的な話です。念の為)

逆に、前任との絡みでうまくいかないこともありました。
こういうのは急にやると強いハレーションを起こしますので。

あと、別に地域住民に恨みや悪意を持っているわけでは当然ないので、
ちゃんと「どこまではやるか」を明確にしておくのも大事です。
「ゼロ回答」は相手の態度を硬化させます。

今回の一件では、医師が「ゼロ回答」をしたわけではないので、
まあ交渉決裂といったところなのでしょうが、
入院と老健を一人で24-7で全部やれというのなら、
さすがに町はいろいろ考え直した方がよいとは思いました。

ただ、前任者が高齢とのことでしたが、
一人で本当に全部やっていたのだとしたら、
その先生には申し訳ないけれど、
やはり

「赤ひげ後遺症」

と言わざるを得ない状況かと思います。

医師が個人的な職業倫理として、24-7を掲げることはそれはそれで素晴らしいことかと思います。

しかしながら、
その地域に骨をうずめ、何十年もやっていくというのでなければ
自分がいなくなった後の地域のあり方を考えつつ勤務体制を構築するというのは
ある意味、存在自体が地域のインフラとみなされる、へき地医師の役割でもあると考えます。

 

 

「北海道の医療の実情」とは(病院再編統合に関連した若干の分析)(4終)

承前

4,小規模病院・少人数の医師に支えられる地域医療

今回対象となった病院に勤務する常勤医の数をまとめてみました。
なお、情報ソースは「北海道医療機能情報提供システム」なので、
いくぶん、現状とズレがあるかもしれない部分はご容赦ください。

Photo_20191013190701

54医療機関中、半分以上に当たる28医療機関が
常勤医師3名以下となっています。

とくに常勤医師1名~2名のところでは、
かなり過酷な環境(平日毎日当直とか、万年オンコールとか、盆・正月に1~2日以外地域からほとんど出られないなど)に
なっていることが予想されます。

もちろん各市町村において医師招聘を行うことでこういった事態はその医療機関は解消されますが、
基本的に医師招聘合戦は限られたパイの奪い合いなので、
この事態を最終的に解決するには、やはり「病院」の集約化や、診療所化とサテライト化を並行して行う以外の
解決策は難しいと思われます。

【雑感とまとめ】

・道内の病床機能分化については、各病院・自治体の不信感を払拭すべく努力を継続していく必要がある。

・医師偏在トップ3である、宗谷・根室・日高については、地域枠卒業生等による充足が期待されるが、
 長期的に維持可能な医療体制の構築は未だに課題として残ったまま。

・北海道の、とくに道東・道北における医療機関の集約化は、【広域分散・寒冷積雪】【不便な地域公共交通】
【公立・公的医療機関に依存する医療供給体制】【小規模病院・少人数の医師に支えられる北海道の地域医療】のほか、
 各自治体の抱える事情により決して容易ではない。

・しかし、効率的な医療の提供と、人的医療資源の疲弊防止の観点から、広域的な視点での医療提供体制の再構築は必要。

・そのためには丁寧な議論、住民の理解を得ることと並行して、医療周辺のインフラの整備もこれまで以上に行っていく必要がある。

以下、今回の分析の限界を示します。

・医療機関間距離はGoogleマップの経路検索で機械的かつ手作業でまとめたので、
 実際に予想される患者の受療行動を必ずしも反映しない場合があり得る。
・医療機関同士の距離なので、医療機関がカバーする圏域の広さが反映されない。
・内科標榜医療機関の医師の専門が必ずしも内科とは限らない(他科医の「なんちゃって内科」を除外できない)
・通院の困難さは距離だけでは測れない(鉄道やバスの有無、本数を反映しない)
・有床診でも積極的に急性期を診ている施設もあるが、それを反映していない。
・病床機能のデータが29年7月1日現在である(それ以上新しいデータが未公表)
・軽傷外傷はプライマリの受診先を科や属性で特定することが難しい。
・直近の急性期病院については病床機能報告上のものなので、実際にはもっと近い
 「回復期」「慢性期」病院で急性期入院診療が行われている場合もあり得る。

なお、今回グラフ作成に使用した生データをここからDLできるようにしておきます。
すべて公表されているデータに基づくものなので、ご自由にお使いいただくとともに、
編集の多くは手作業ですので、誤りについてはご容赦ください。
(もし誤りを見つけたら、ブログサイト右下のメールか、コメント欄にご一報いただけると幸いです)

以上ですが、最後に、北海道、とくに道東がどんな世界かを示す
「It's 北海道」というべき画像を提示して本稿を終わります。

Jusco110km
※いろいろなまとめに転用され、原典がわからない画像です。もし、著作権等主張される方がいらっしゃいましたらご一報ください。

「北海道の医療の実情」とは(病院再編統合に関連した若干の分析)(3)

承前

2,不便な公共交通

Jr_20191013182701

 左がJR北海道のサイトから拝借した路線図、右が道内の再検証対象医療機関54箇所の分布図(再掲)です。
 そして、フリーハンドで囲ったのがJRの通っていない、あるいは長期不通となっている場所に存在する病院です。

 オホーツク海沿岸、中~北部根室、そして、日高東部~十勝南部、十勝北部の一部、岩内~松前の日本海側各医療機関が該当します。

 JRが通っていなければ、自家用車を持たない人の通院手段は必然的にバスや乗り合いタクシーとなりますが、
 こういった地域のバスはたいてい1日3~4本で、まさに「吉幾三」の世界です。

 このような地域の医療機関を再編・統合を進めるにあたっては、
 一定の配慮が必要となります。

3,医療供給体制の公立・公的医療機関への依存

 北海道のとくに地方の医療の大きな特徴として、
 地域医療の大部分を公立・公的医療機関に依存している自治体が少なくないということがあります。

 それを示すデータを下記に示します。

Photo_20191013184601

データは、図上をクリックして拡大して御覧ください。

上段が「自治体唯一の内科標榜医療機関」、つまり、これをなくすと
町内にかかりつけ医がいなくなる、という医療機関です。
全道単位で再検討対象公立・公的医療機関の3割弱、道東・道北では4割弱が該当します。

下段は「自治体唯一の有床医療機関」、つまり、これをなくすと
町内で入院できなくなる、という医療機関です。
全道単位で再検証対象公立・公的医療機関の6割、道東・道北では実に85%近くが該当します。

なぜ、「自治体唯一」とあえて特出しにしたのかというと、
こういった医療機関の維持は、
該当する市町村にとって、市町村政上の最重要課題に位置づけられている現状があるからです。

実際に、
オホーツク管内雄武町の町長選挙にあたって、町立国保病院の常勤医を1名から2名に増やすことを
公約とした新町長が当選したわずか数日後に、当該病院が名指し公表されてしまったのは
まだ記憶に新しいところです。

ここらへんやはり「解いておくべき誤解」がありまして、
「再編統合」というのは、マチから医療機関をなくすこととイコールではなく、ダウンサイジングや回復期などへの機能転換、
診療所化なども含めた話であり、
厚労省が示したのは「再編統合が必要な医療機関」ではなく、「再編統合の必要性について特に議論が必要な医療機関」です。
そして、地域にとっては、維持可能な医療体制のために
「何を残すために、何を手放すか?」この議論を真剣に考えなければいけないということです。

例えば、「ここがなくなったら血圧の薬をもらいに20km離れた隣町までバスで行かなければいけない」とか
そういう次元の話ではないし、そういう話も含めて地域でしっかり議論されるべきなのです。

続く

 

「北海道の医療の実情」とは(病院再編統合に関連した若干の分析)(2)

承前

北海道の医療の「広域分散性」についての考察の続きです。

ア,外来診療機能

 これは例えば、風邪などの急病や、血圧などの慢性の病気の医療を行う機能で、
 おそらくもっとも皆さんには身近なものと思います。

 ではさっそくデータを示します。

Photo_20191013164801

 このデータは、今回名指しとなった54施設の中で、
 島内に内科医療機関が他にない奥尻島国保病院以外の53施設を対象としています。

 多くの医療機関が同じ町内に別な内科医療機関を持っていることがわかります。
 だからといって、キャパシティの問題もあるので、代替可能性があるとかなくなってもよいということではありません。
 一方で、直近の内科標榜医療機関まで10kmをこえる医療機関が53施設中17施設あることにも注目です。
 最長は図に示すとおり35.3kmですが、猿払村国保病院がなくなったとして、
 住民のみなさんが浜頓別に行くとはちょっと思えません。恐らく大部分が稚内に行くのではないでしょうか。
 しかし、だからといってこのデータが実態を反映しないデータなので役に立たないというのは早計です。

 住民の皆さんはこれ以上の距離の移動を余儀なくされるわけですから、
 北海道の「広域分散性」を示すデータとしてはこれで十分と思っています。

 ただ、この内科外来がなくなるということは、実質的に病院そのものが消滅することを示しています。
 実際にはこれまでの、道内で病院が維持できなくなったケースでも
 その大部分は有床または無床の診療所化、あるいはサテライト診療所などとして
 生き残っているわけですから、そういう意味での医療機関の必要性と、残すための方策は
 十分地域で話し合う余地があるのではないでしょうか。

イ,急性期入院診療機能

 これは病院の「病院」たる所以であるコアな機能です。
 この機能を失うということは、「回復期」「慢性期」病院として生まれ変わるか、
 あるいは有床または無床の診療所化するということになります。

 では、データを示します。離島である利尻島国保中央病院、奥尻島国保病院を除く52施設を対象としています。

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 これは、厚労省が毎年行っている病床機能報告の結果から出したデータです。
 29年7月1日現在のデータなので少し古いかもしれませんが、30年度の結果がまだ公表されていないので
 ご容赦ください。
 こんどは町内レベルに近いところは少なく、10~40kmくらい離れているところが多いという結果が出ました。
 最長は76.8kmある広尾~帯広間となりましたが、
 実はこの間にも、大樹町国民健康保険病院や、更別村国民健康保険診療所、中札内村立診療所などの
 有床医療機関が存在します。しかし、いずれも「急性期」に名乗りを上げていません。

 そもそも病床機能報告は「自己申告制」で、
 有床医療機関ごとに自分たちの病床が「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つのうちのいずれに当てはまるかを
 自分たちで判断して「ベッド単位」ではなく「病棟単位」で報告してもらうものです。
 したがって、例えば1病棟しかない小さな病院で急性期と回復期の両方を診ていてもどちらか一方しか報告できず、
 残りの病床数は「0」と報告せざるを得ないわけです。
 このために、南檜山、日高、根室の各医療圏は、回復期「0床」と報告され、
 若干の物議を醸しました。
 普通に考えて医療圏まるごと回復期医療なしなど、いくらなんでもそんなわけはありません。
 実際に厚労省から、半ば言い訳じみた事務連絡が発出されています。
 こういう数字は都道府県や全国単位で大まかな傾向を示すのには適しているかもしれませんが、
 二次医療圏単位の方針をこの数字を使って決めろというのは無理があります。
 自分たちで誤解を招くような指標を作っておいて、「誤解させる状況が生じていると想定される」とは
 雑な仕事にもほどがあります

 話がそれましたが大樹・更別・中札内でもひょっとしたら細々と急性期医療を行っているかもしれない
 (というかその可能性が高い)と思いますが、そうであったとしても数字には現れないので
 このような結果となってしまった可能性があるという話です。
 しかしながら、広尾町国保病院のHPを見ると、「北斗病院」へのリンクがあるくらいのつながりはあるようですので、
 この76.8kmという机上で出した数字は、まんざら間違った結果ではないようでもあります。
 (追記:とある方からご指摘をいただきましたが、広尾町国保病院については独法化の際に
  北斗の理事長が法人理事長になられたようです。つながりどころの話ではないのですが、
  サイトで確認できた話であり、すっかり見落としていました。ご指摘ありがとうございます)

 いずれにしろ、この機能を維持するためには「病院」または「有床診療所」であることが条件となります。
 現状での維持がむずかしいとなれば、どこまで縮小してもよいかという議論にならざるを得ません。
 地域によっては、この議論をきちんと行わないといけないところもあるのではないでしょうか。
 かりにこの議論を先延ばしにしていると、いずれ経営の問題あるいは人的医療資源の問題などで、
 予期・意図しない縮小、すなわち「医療崩壊」を起こしてしまう懸念があります。
 医療機能の縮小は計画的に、かつ粛々と行っていくべきものと私は思っています。 

ウ,小児科の専門診療機能

 子供を持つ世帯が田舎に引っ越したときの最重要事項の一つが、地域における小児科診療と思います。
 正直、隣町まで行かないと小児科医の診療を受けられないなら、いっそ自分が隣町に住んで
 そこから町をまたいで通勤しようかという気にすらなります。

 ここでは、内科・外科とは独立した小児科外来を週4日以上行っている施設、
 および内科・小児科や総合診療科であっても小児科専門医が担当している施設を抽出し、
 その結果54施設中14施設がヒットしました。以下にその分布を示します。

Photo_20191013173201

 正直な話、小児診療にあたって内科医や外科医がやっている「なんちゃって小児科診療」では
 親御さんも不安を覚えるでしょうし、担当している医師もそうだと思います。私がそうでした。
 では、総合診療医はどうなのかというと、たしかに総合診療医や家庭医は
 その修行の過程で、一定以上の小児診療に関する知識・技術を身に着けているはずです。
 少なくとも、何の修行もしていない「なんちゃって小児科」よりは安心できるはずですが、
 ただ、他の専門医療と大きく違うところは、
 目の前に総合診療科のブースと小児科のブースが並んでいます。
 初診でどちらでもいいと言われたらどちらを選びますかと問われたら、
 ほとんどの親御さんが小児科を選ぶと思います。
 これは小児科専門の方が安心できるということだけではなく、
 そもそも一般小児科外来自体が「小児の総合診療」的機能を内在しており、
 (小児科が専門しか診ないというのは一部の大病院を除き非常にまれなシチュエーションなので)
 成人の診療と違って何も入り口が「総合診療科」である必要がないからなのでしょう。

 前置きが長くなりましたが、データです。

 Photo_20191013162401

 拡大しないと見づらい大きさになってしまいすみません。
 (図とシングルクリックすると自動的に拡大します)

 上段が「小児科かかりつけ医機能」を、下段が「入院も含めた小児科急性期診療機能」を反映するようにしました。

 結果、いずれも直近の医療機関が10~30km離れているところが多くなった一方、
 最長はいずれも厚岸町立病院となりました。
 この厚岸町立病院は、この規模の町のこの規模の病院には珍しく、
 小児科医が院長を担当しています(ちなみに私の大学の先輩に当たる方です)
 ここが小児科専門診療をストップした場合、周囲は釧路・別海・根室まで行かないと
 小児科医がいないということになってしまいます。

 しかしながら、全道レベルで考えると、例えばオホーツク海沿岸では紋別~稚内間に小児科はないようですし、
 日本海側でも羽幌~稚内間に小児科はいないということになります。
 やはり「なんちゃって小児科医」も必要なのです。
 北海道と北海道医師会、北海道小児科医会では、これらの医師に対する小児救急の研修会を行っています。
 「なんちゃって小児科医」にはたしかに限界があるとも思いますが、
 きちんと修練すれば本当の緊急時には子供を救うこともできると思っていますし、
 北海道のへき地で勤務するにはどうしても必要な知識・技能であると、自らの経験からもそう思います。

エ,人工透析

 これは数的には大したことありませんが、
 状況によってはなくなると該当者はその町には住めなくなるか週3回の長距離通院を強いられます。
 多くの未導入の地域で切望され、そしていざ始めてみて中止の危機となればみんなが騒ぎ出すという
 なかなかにシビアな医療であります。

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 対象54施設中、人工透析をしている施設は22がヒットしました。
 透析ほど、「多くの場所でやっている」イコール「簡単に導入できる」ではないということが
 現場感覚として強く感じられる施設はありません。

 旅行透析が受けられないかどうかを調べていると、
 「どこでもやっているのに、なんでここではやってないのか」と思うこともあるかもしれません。
 それはへき地であればあるほど、多大な労力をかけて維持しているということなのであり、
 その労力を割くリソースのないところでは、透析などできやしないと、そういうことなのです。

 ではデータです。

Photo_20191013175701

 これは見事にバラけました。(「離島」は利尻島国保中央病院です)
 ~5kmに分類された3施設のうち2施設は、「実績僅少」ではなく「類似かつ近接」に分類された都市部の大病院です。

 隣接する透析医療機関まで30km以上離れている6施設は
 典型的な都市部から離れた「田舎病院」です。

 再編統合で透析医療に手を入れるならば、
 そもそも透析しなくては生きられない患者さんの人生を大きく変えることになるのと同時に
 医療供給の効率や少人数を対象とした医療のリソースのあり方をどのように考えるかを
 それぞれの地域に突きつけられているということでもあり、
 おそらく地域のみなさん、まして透析医療の当事者たちは
 そんなことを厚労省に勝手に決められたくないと強く思うことと思います。

 しかし現実には透析医療を継続するためには、高価な機械の整備、
 そして、臨床工学技士の継続雇用、担当看護師の育成など
 それ相応の経済的、そして人的コストを必要とするわけですので、
 地域にとってもしっかり考えていかなければならないことと思います。
 故・村上智彦先生が言っていたように
 「命にかかわるからといくらでもお金を使ってよいのではなく、
  命にかかわるからこそしっかりお金のことをかんがえなければいけない」と、
 これは人的コストにおいても同じことが言えると思います。
 居住地選択の自由や、生存権・幸福追求権にも関わるので大変にむずかしい問題です。

 ただ、羅臼のように診療所化しても頑張って透析を続けているところもあるので、
 やはり、「何を選び、何を手放すか?」という議論が大事ということと思います。

続く

「北海道の医療の実情」とは(病院再編統合に関連した若干の分析)

さて、前回は、

健康診断にひっかかっただけなのに精査をすっ飛ばして『それは治療が必要だ』と横やりを入れる

が如き話をマスコミが報道したために

田舎の首長さんや住民が大混乱という話を書いたわけですが、

新聞などには「実情を無視」などとも書かれていました。

今回の公表の趣旨から言えば、厚労省は地域の実情など一切考える必要がなく
(あくまでスクリーニングの趣旨なので、)
それを地域でしっかり自分たちで考えてくださいというものだったのですが、
では、北海道の医療の「実情」とはいかなるものか、
少しでも現場の状況を反映できるデータが、
公表されているデータだけで何とか作れないかと試行錯誤してみましたので
少し長いですが、おつきあいください。
(この後、とある会議に出すための資料を用いてブログ用に文章を改めて起こしたものです)

54

まずは、今回名指しされた54施設の分布図です。
大部分を占める赤いコマが「診療実績の少ない医療機関」で、
青いコマが「近隣に機能の類似した医療機関が存在する医療機関」です。
道内ほぼくまなく網羅されているようにも見えますが、
意外なことに留萌管内が皆無で、後志管内も1施設にとどまっています。
ここの分析はよくできませんでしたが、今回の趣旨とは外れるので割愛します。
(追記:後志は小樽市のほかには病院自体4軒しかなく、
    留萌も病院が6軒しかないうち、急性期は留萌市立と道立羽幌しかなく
    地域の小規模病院で急性期を申告しているところがないという事情のようです)

さて、北海道の医療を語る上でいくつかのキーワードがあります、すなわち
「広域分散・積雪寒冷」
「不便な公共交通」
「医療供給体制の公立・公的医療機関への依存」
「小規模病院・少人数の医師に支えられる地域医療」

これらに関して現在の医療体制が失われた場合どうなるのかも交えて
少し考察してみることとします。

1,広域分散・積雪寒冷

これはそのままズバリで、北海道の場合、隣町まで40~50kmは当たり前であり、
しかも冬にはあちこちの道路が冬季通行止めになったり、悪天候で通れなくなったりするという状況で、
単純に医療の需要量だけであるべき病院配置を決めることはできない、という理屈ですが、
実際のところはどうなのでしょう。

さて、地域でみなさんが身近にかかる、いわばかかりつけ医に求める機能は何かを考えてみましょう。

「急病などの外来診療」
「軽い外傷の診療」
「比較的高度な救急(脳卒中・心血管疾患・多発外傷など)医療」
「急性期入院医療」
「小児科の専門診療」(外来・入院)
「分娩受け入れ」
「人工透析」

だいたいマチからなくなると大騒ぎになるのはこんなところでしょうか。

この中で、
「軽い外傷の診療」は内科にかかることもあれば、外科・整形外科、少し知恵のある方なら皮膚科・形成外科にかかったり
受療先が特定困難なので今回は考察しません。
「比較的高度な救急医療」については現状でもある程度集約化されており、
「分娩受け入れ」については54施設中1施設しかなかったので考察対象から外します。
(そもそも周産期医療センター指定医療機関は再検証対象そのものから外されてます)

そうすると、ここで論じるのは
ア,外来診療機能
イ,急性期入院診療機能
ウ,小児科の専門診療機能
エ,人工透析

ということになります。

長くなるので次に続きます

再編統合の「必要性について特に議論が」必要な公立・公的医療機関等について

10/9内容を一部修正しました。

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最近いろいろ忙しくてついつい更新をサボりがちでしたが、
さすがにこのネタはスルーできないので、いつものように駄文を書き連ねてみます。

厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」での議論を経て、
「再編統合の必要性について特に議論が必要な公立・公的医療機関等」が実名公表されました。

424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表(日経の記事にリンク)

全国で424病院が名指しされ、うち北海道内は54施設と全都道府県中最多となっています。

北海道が全都道府県最多となった背景には、
非都市部の急性期医療の多くが市町村立や厚生連・日赤などの公的病院によって供給されていることや、
町立病院クラスの病院など、診療対象人口が数千人クラスの病院が多いことがあると思います。

新聞報道などを見ると、「再編統合が必要とされた医療機関」などと、
まるで医療機関が不要であると断じられたようなセンセーショナルな書き方になっていますが、
個人的な感想としては「あ~やっぱりこうやって誤解されたか」というところです。

言っておきますが、「再編統合が必要な医療機関」と書かれている新聞・報道はすべて不正確です。

大事なことなので再度いいますが、厚労省の元資料は
「再編統合の必要性について特に議論が必要な」という表現で一貫しています。

先に結論を言ってしまうと、今回リストアップされた病院は、
厚労省が示すデータではその必要性を示すことができなかった公的・公立病院」というのが
正しい解釈と私は考えています。
で、その必要性については地域できちんと話し合って、
存続という方向をとるならば、その必要性、必要な理由
そしてどのような形態で(そのまま?ダウンサイジング?診療所化?一部機能の他院委譲?病院機能の転換?)存続するかの具体的な絵を描いて
各地域において行われる「地域医療構想調整会議」の議論を通して示してくださいねということと思います。

以下、解説です。

今回リストアップされたのは、
1,近接地(救急搬送を考慮し、おおよそ車で20分程度)に機能の類似する医療機関の存在する公立・公的病院(以下「類似かつ近接」という)および
2,「特に診療実績の少ない公立・公的医療機関」です。

前者は、主に都市部の病院で同じ市街地に「どんぐりの背比べ」のような病院が林立している場合や、
北海道では例えば空知南部のように市町村が密集しているような地区で近接距離内に類似した診療実績の医療機関がある場合を
イメージするとわかりやすいと思います。

一方で、北海道で大きな問題となるのは後者と思いますが、こちらはもう文字通りの意味です。

その選定ですが、まず、全国の地域医療構想区域(北海道では二次医療圏と一致)を区域内人口で層別化します。
(「100万人以上」「50万人以上100万人未満」「20万人以上50万人未満」「10万人以上20万人未満」「10万人未満」の5階層)

「類似かつ近接」は、上記層別ごとに「周産期医療」「小児医療」「救急医療」「脳卒中」「心筋梗塞等の心血管疾患」「がん」6領域全てにおいて診療実績の類似する医療機関が車で20分以内の近接距離にある場合に該当します。この項目は、医療機関の競合による共倒れを防ぐことを目的としていると思われます。

一方「特に診療実績の少ない公立・公的医療機関」については。上記層別ごとに「研修・派遣機能」「へき地医療」「災害医療」「周産期医療」「小児医療」「救急医療」「脳卒中」「心筋梗塞等の心血管疾患」「がん」の9領域のうち「小児医療」「救急医療」「脳卒中」「心筋梗塞等の心血管疾患」「がん」についてそれぞれの領域の各評価項目の実績がすべて下位3分の1に入り、かつ、「周産期医療センター」に指定されておらず「周産期医療」の実績が下位3分の1に入り、かつ「研修指定病院(基幹型)」「へき地支援病院」「災害拠点病院」のいずれにも指定されていない、(10/9修正)をすべて満たす病院を機械的にリストアップしたもので注意したいのは、こちらは「類似かつ近接」の条件とは異なり周囲の医療機関との距離は関係ないというところです。

なお、各領域ごとの細かな内容についてはこちらでも不明ですが、
厚労省からワーキンググループの内容に関してある程度の資料は公表されていますので、時間のある方は御覧ください。

いずれにしても、当然のことながら北海道特有の「広域分散」「積雪寒冷」「公共交通機関の貧弱さ」「病院ごとの対象診療人口の差」「自治体立病院に大きく依存する地域医療体制」などは考慮されていないわけであって、北海道においては過疎地の小さな町村立病院がリストアップされるのは、ある意味当然ということになります

ここからは推測ですが、厚労省ワーキンググループは、そこを「あえて考慮しない」ことで地域における議論を促そうとしたのではないでしょうか。この集計そのものが粗々のものであることは、作った厚労省が最もよくわかっているはずで、実名公表された病院や地域においては「再編の要請」ではなく「再検証の要請」をするということで、病院を「潰せ」とか「廃止しろ」と言っているわけではなく、「必要性を地域でよく検証してください」ということなのでしょう。

だから、厚労省はリストアップされた病院の中にも今回の9領域に含まれない重要な役割を地域で果たしていることもあるのでよく議論することとワーキンググループの資料の中でも明言していますし、今回公表された医療機関は、くどいようですが報道の論調のような「再編統合の必要がある医療機関」ではなく、「再編統合の必要性について特に議論が必要な公立・公的医療機関等」ということです。

ここを誤解されてしまうと、地域の医療供給体制の在り方に関する議論を進めることができなくなってしまいます。その具体的議論こそ、「地域医療構想調整会議」で各医療機関の代表や首長さん、受益者たる住民代表なども含めた地域の代表がしっかり議論すべきところなのです。

あと、「再編・統合」という言葉が一人歩きしていますが(これも公表前に危惧した通り…)、ダウンサイジングや機能転換なども含めた、地域全体の医療の在り方の検討の中で個別医療機関をどうするかを検討してくださいということで、例えば「病気になったら40~50kmも離れた隣町に行けということか」などという批判は当たりませんそういう事情こそ、「地域医療構想調整会議」で議論されるべきものです。

また、リストアップされた医療機関を国が問答無用で「不要な病院」と断じているわけではないので、ここは是非、誤解なきようお願いいたします

あと、道新の1面の中見出しには「医療費抑制狙う」と書かれていますが(本文にそのことを書いてないという内容以前の問題はこの際置いておくとして)、単純にそれだけではなく、集約化などを含む医療提供体制の効率化によって不採算医療を担う医療機関の共倒れを防ぐという目的もあります。これについてはそもそもの地域医療構想の考え方で、一貫しているものです。

さて、ここまでは国のスポークスマンみたいな論調になってしまいましたが、今回医療機関の実名が公表されたことによる懸念が思いつくだけで3つあります。

一つ目は、リストアップされた病院に医師を派遣している大学医局がこれを契機に医師を引き上げてしまう可能性
二つ目は、公的病院を運営する厚生連や日赤などがこれを機に当該地域から撤退する引き金となってしまう可能性
三つ目は、リストアップされた病院の将来に失望して看護職員等の大量辞職を招く可能性です。

いずれも「予期・計画しない」医療体制の縮小、すなわち医療崩壊を招いてしまう可能性があります。
これについては、正直名前が公表されてしまった以上、各医局や機関に自制を求めるしかありません。
うがった見方をすれば厚労省はそれをこそ狙っていたということも言えなくはないのでしょうが、
ここのリスク評価についてはやや甘かったのかなという印象がぬぐえません。

いずれにしても、今回俎上に上がった各医療機関を抱える地域においては、
センセーショナルな報道に決してうろたえることなく、
着実に議論を行っていかなければならないと思いますし、
医療提供の効率と住民の安全を秤にかけた議論は今後とも継続していかなければならないと思います。

今回の明らかに批判に偏った各社の報道で、この議論に水を差されることが
ないように願うばかりです。

 

医師不足地域での残業時間上限緩和!?→厚労省さん、それ何の罰ゲームですか???

医師不足の地域、残業時間の上限を緩和 厚労省が提案
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181205-00000052-asahi-soci

これは明らかに愚策。

医師不足の地域にはそもそも医師不足たる理由があって医師不足なのに、
更に医師不足地域に行きたくなくなる理由を厚労省がわざわざ作ってどうする。

医師不足地域での診療が好きで、
かつては自ら望んで医師不足地域の診療に携わっていた者として断言する。

こんなもの今すぐ撤回すべきだ。
冗談じゃない。

僻地勤務の「罰ゲーム化」は頼むからやめてくれ!!

神戸大学「不適切」入試について考える

はじめにお断りしておきますが、このエントリーも含めブログの内容に関してはすべて筆者の個人的見解であり、所属する組織は一切関係ありません。

 

    神戸大:医学部推薦入試で医師不足地域受験者に加点https://mainichi.jp/articles/20181123/k00/00m/040/148000c



 一連の医学部入試「不正」事案に関連して、神戸大学で「いわゆる僻地・医療過疎地」出身者の点数を嵩上げしていたことが発表されたようですが、私としては、

よくやった!神戸大学!!

と心の底から快哉を叫びたいところです。

たしかに、「大学という教育機関」が、入試を受けたものの属性で区別・差別を行うことは良いか悪いかと言えば、良いとは言えないでしょう。

しかし、「医師という職業人養成機関」であり、地域医療を担う責任を持たされた医育機関として考えれば、これはある意味当たり前の判断とも言えるものです。

そもそも僻地・医療過疎地出身の高校生・受験生は、偏差値価値観的には大きなbehindを背負っていることはもう明らかですし、また今のところはっきりしたデータは寡聞・不勉強にしてわかりませんが、都会出身者よりも僻地出身者の方がへき地・医療過疎地の医療を担ってくれる可能性が高いと考えるのは自然なことです。

それこそ不適切かもしれませんが、家庭環境や経済環境に恵まれない人を優先して選べばもっといいかもしれませんね。大学院進学や留学なんてある程度、実家などの経済的基礎がなければできないし、そのような人は、学問的に上に行くことより収入の多いへき地や離島に好きこのんで行くでしょうから。実例はあります。私がそうでしたから。

むしろ偏差値やワンポイントの試験の点数だけで選んでいることが医者がへき地に行きたがらない原因の一つになっている可能性だってあるわけで、私の立場で言うのも難ですが、これは地域枠に奨学金を被せている自治体単位で考えてもよい政策であると思います。それを「学問の府」である「大学」が自主判断で、しかも入試点数の嵩上げという手段で、かつ明示せずに行ったからこれだけ非難を浴びているわけです。

かつて自治医大の学生時代の臨床実習中に、とある科の指導医の先生に

「うちの大学のように決められたカリキュラムをこなして、卒論もなく試験合格のみを目標に人材を作りだして輩出し、行き先もほぼ決められているなら、別に大学じゃなく医学専門学校でいいんじゃないですか? 大学を名乗るなら純粋に学問の場であるべきで、今の状況は不健全と思います」と生意気にも意見したところ、

「君は自分が患者として『大学も卒業していないどこの馬の骨ともわからないあんちゃん』に診られたいのかね?」と言われたのを思い出しました。

日本の医科大学・医学部というのは他学部と全く異なる位置づけがされています。文科省の管轄下にあり、「大学」を名乗っていますが、医師の人数調節のため入学時点から既に人数調整がされ、実質的に「職業訓練校」です。

大学とは本来「学問の府」であり、「学問の自由」の名の下、自治権も確保され、入学者を選ぶことも、研究内容も、指導内容も、そして卒業後の進路にしても全て自由なはずです。実際に多くの学部では、自分の専門分野をそのまま職業としてストレートに活かせる人はむしろ少ないとされています。それを理由に医学部を目指す人もいるくらいです。

しかし、医学部卒業生は国家試験に何度も失敗したりなどの特殊事情がない限りほとんどの人は医師あるいは医療関係の仕事に就きます。

大学医学部における医師養成には多額の国家予算・自治体予算が組み込まれており、ドロップアウトした人間は「税金泥棒」扱いされます(さすがに「一人一億」は都市伝説ですが)。「医学部はつぶしがきかない」とは使い古された表現ですが、だからこそ入学時点での人数コントロールが利きますし、大学側としては一人でも脱落者を減らすことに躍起になるわけです。そうでないと、大学が税泥扱いされかねませんから。

つまり、日本の医科大学・医学部は、「学問の府」でありながら、「医師養成専門学校」でもあらねばならないというハムレットのような状況に長年置かれてきたわけです。
そしてその時々の都合で「大学」であることと「医師養成機関」であることを使い分けることを余儀なくされたわけです。


東京医大はどうかわかりませんが、少なくとも神戸大学は、「医師養成専門学校」としての「地域で働く医師を輩出する」という社会的責任を果たそうとした結果がこれだと思いますし、

それを「不正」という一言でくくって一方的に批判してよいものなのでしょうか???

 

すでにいろんなところで「実質医局枠」と化している現行の地域枠の「運用」には個人的には批判的であるものの、これは「許される不公平」ではないでしょうか。

学問の場である大学入試に属性による差別を持ち込むことが愚かであることは否定しませんが、「政策」「施策」として考えたとき、「純然たる公平」イコール「社会正義」とは必ずしも言えなくなります。そのことをよく考えるべきです。

私ごときが20年以上も前に気づいていたくらいですから、おそらく大学医学部のハムレット状態には旧厚生省も旧文部省も当然わかっていたはずで、本件については

そのような状況を長年にわたり(たぶん)わかっていながら放置してきた旧厚生省・旧文部省の責任は重い

と言わざるを得ません。

私個人としては、

・国公立医学部は全て「大学校」に組織改編し、文科省の支配下から離す。

・その上で各国公立医学部は純粋な「大学院大学」とし、そこでは学問の自由、大学自治権は全面的に保証する。(「医局人事」の問題はまた別。ここでは触れません)

 が、最もすっきりして良いとは思いますが(私立大学医学部の問題は残りますが、それは突き詰めて考えると、ちょっと大きな声では言いたくない方向の結論にしかならないので、ここでは触れません)、

いずれにしても、神戸大学が本気で僻地医療を考えてこのような施策をとっていたのであれば、その一点に関しては

神戸大学グッジョブ!

と本気で思いますし、

・医師を目指す高校生・受験生のための教育資源は大都市に大きく偏在している。

・学習能力の評価に当たって用いられる「偏差値・試験点数」は、教育資源の多寡や環境に大きく修飾される。

という現実からも、

今回の神戸大学の一件を一方的に「不正」「不適切」として、「学問」の立場からのみ断じてしまってよいものではないと私は思いました。

地域枠とペナルティについて。

折しも、東京医大の入試を巡る不祥事でネット界隈は大論争が起こっていますが、
こちらはいろんなトピックを含む大変複雑な問題でまだまだ頭がまわらないので、
本日はあえて地域枠の話です。

医学部受験の地域枠といっても2種類あります。

一つは、卒業後の義務年限を果たす代わりに授業料や生活費を貸し付け、
義務を果たせば返還免除にするという、お金による契約。(以下、貸付枠とする)

もう一つは、金銭的な援助はしないが、その地域で働くことを前提に
一般入試とは違う特別な枠で学生を受け入れるということ。

後者はとくに、北海道のように道外からの受験生を多数受け入れ、
卒業後は道外への流出が多かったようなところでは貴重な枠になっています。

その数、

札幌医大 定員110名中地域枠90名、うち貸付枠15名
旭川医大 定員117名中地域枠52名、うち貸付枠12名
北大    定員112名中地域枠5名、うち貸付枠5名
北海道「地域枠医師の配置等の考え方」より)
※上記文献では北大地域枠総数が「-」になっていますが、記載ミスと思われます。
※エントリー作成後、指摘をいただきましたが、
 北大は一般枠入学生から希望者を募る形のため、
 地域枠の定義に当てはまる学生は「0」ということのようです。

この地域枠に関して、義務に違反するとどういうことになるでしょうか。

金銭が絡むならことはそんなに難しくありません。
貸与金の一括返還を要求すれば、少なくとも法的な「オトシマエ」はつきます。
お金で契約した人に対して、お金で契約破棄のオトシマエをつけようとしている人を
止めることは許されないので、これは仕方ないことかと思います。
(それがいいことか、道義的に許されるのかどうかは、もちろん別として)

では、金銭の絡まない、単に特別枠で合格させてもらった地域枠出身医師はどうなるでしょう…。
この時点では大学を卒業し、国家試験も合格して医師免許も発効しているわけですから、
それを剥奪することはできません。

一つ考えられるのは、入学にさかのぼって入試合格から全てをなかったことにしてしまうことですが、
その場合医師免許剥奪ということにもなるので、そんなことを強行すれば
自治体と大学・文科省、それと医師免許を所管する厚労省の間で大モメに揉めるでしょう。
まず不可能な選択肢です。

次に、違約金を払わせるとか損害賠償請求という選択肢がありそうですが、
いったん違約金や損害賠償・和解金の相場が確立してしまうと、
「なんだ、お金で解決できるんだ」ということになれば
これは逆にお金持ちの子弟が地域枠で入学して、違約金を払って他県に流出してしまうという
モラルハザードを生み出しかねませんし、
それ以前に大学入試合格とお金を交換可能な価値とみなしてしまうという面で大変不健全なやり方です。

そんな中で、地域枠を放棄した研修医を引き取った病院に補助金や研修医定員の削減等でペナルティを課すやり方 が議論されています。

これに関しては正直、よく考えたなとは思います。

いささかやり方がヤクザチックで正直自分の感情的には気に入らないのですが、
地域枠出身医師個人にペナルティを課すことの法的リスクを考えると
他にやりようがなかったのではないでしょうか。

個人的には、地域枠の真価は
彼らが義務を終えて総合医や家庭医、専門医、指導医として独り立ちしたときに
それでも地元県のために頑張ろうと思ってくれる人がどれだけいるかということで
示されるのではと思います。

別にみんながみんな田舎で働く必要はありませんし、
ことに北海道の場合は札幌や旭川で大病院の部長や教授になって
地域の医療を支えるのも立派な地域枠義務終了後の生き方と思います。

北海道の地域・地方センター病院クラスの病院は
内科外科などのメジャー科や、皮膚科・泌尿器科などのマイナー科にかかわらず
「専門医」不足に大いに喘いでいます。
これら中規模病院で働く専門医がしっかりした体制でなければ
周辺の小病院・診療所は頼る寄る瀬がなくなってしまいます。

ことに心臓と頭の緊急に最前線で対応、かつ病院到着までの時間が予後に直結する
循環器内科と脳神経外科の地方での空洞化は北海道では深刻な状況ですし、
高齢者の多い地方を束ねるセンター病院や基幹クラス病院での
整形外科や泌尿器科医師の不足は大きな問題となっています。
産婦人科医師の偏在による地方のお産事情はもう言うまでもないでしょう。

北海道で医療の将来を担うことに、少しでも希望を持てるようにする。
我ら先達の大きな使命と思っています。

医師の地域偏在の問題を個人への勤務強制で解決しようとするのは悪手である。~「赤ひげ」には患者は守れても地域は守れない~

しかし…どうしてこう、へき地医療対策というと
医師という個人に制限を課したりインセンティブを与えて行かせるというが如き発想しか出てこないのでしょうね。
へき地医療は牢獄か何かなんですか?
医療過疎の原因を、そんなに医師個人の責に帰したいのですか?
医師偏在を、医師のわがままのせいにすれば解決するのですか?
ずいぶん雑なお仕事ですねえ。

同じ強制力を課すなら、
以前のエントリーに少し記したように、
個人ではなく、都市部の単独で研修も行えるような医療機関を
ドクタープールに設定して、
医師を派遣する義務を課せばいい。


以前のエントリーにも書いたが、
義務の主体は個人ではなく、組織やシステムであるべきだ。

そのような大きな医療機関の指導医クラスに、
地域の医療に造詣の深い医師が誰もいないなんてあり得ないだろうし、
(もしそうなら、研修指定医療機関を返上すべきかと…)
指導医がちゃんとフォローした上で若手医師を送り込めば良質な研修にもなるはずです。
複数医師による数ヶ月や1年ごとの交代派遣にすれば、
時を違えて派遣される医師どうしで地域に関するカンファレンスをやって
質の高い議論ができれば、
その地域の医療の質を向上させることだってできるはず。

でも、この北海道だって、似たような試みを
システムで徹底してやっているのは
北海道家庭医療学センターも含め数えるほどしかないだろう。
(他にあれば是非教えてもらいたいです。もちろんいいことなので)

それが問題なんだろう。

へき地に人が行かないのが問題の根源なのではない。
それを後ろからサポートする体制やシステムが貧弱すぎるのです。
だから行きたくてもおいそれと行けない。

へき地の医療を生身の人間であって家族もあれば病気にもなる個人の肩に委ねる体制を
ますます強化して一体どうするつもりなのか。
地域に一つしかない開業医や診療所・病院が
1人ないし数人で24時間365日を守る「赤ひげモデル」から
未だに脱却できていない。

もう「赤ひげ」は無理だって、故 村上智彦先生も何年も言い続けてきたのに。

それが検討会の識者たちの危機管理意識と言うのなら悲しいにも程がある。
「赤ひげ」がどんなに身も心もすり減らして頑張ったところで
地域の危機管理はできない。物理的にも精神的にも無理。


それどころか、「赤ひげ」の肩に全てを委ねるごときは却って危険ですらある。

「赤ひげ」には、患者は守れても地域は守りきれない。

へき地医療を「牢獄」化してしまっている原因の一つは、
その「発想の貧困さ」であることに気づいて欲しい。

少なくとも、個人を悪者に仕立て上げる論調はやめましょう。

システムでやりましょうよ、システムで。

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