コンビニ受診

なぜコンビニ受診がいけないのか?(6) 総括

こういった細かな事情はそれぞれの医療機関によって全く異なりますが,一つ共通することでかつ最も大切なことは,

医療資源は人的資源・経済的資源からなるが,両方とも有限であり,枯渇することがある

ということであると思います.

そしてとくに自治体病院の場合,「コンビニ受診」は住民みんなで育てあげて確保してきた,限りある医療資源の浪費であり,

つまりは「税金泥棒」に等しい行為である

という認識をもつことは,自らも納税者かつある意味医療施設の共同オーナーでもある住民の,義務であると考えております.

以上,ここまで拙い文章をお読みいただき,ありがとうございました.

なぜコンビニ受診がいけないのか(5) 中~大規模病院

次に中規模病院(50~200床程度)の場合について述べます.

このレベルの病院は,紹介を受けることも,紹介することも多いのが特徴です.

通常当直医が一睡もできないということは滅多にないのですが,例外的に混雑した場合や,思いの外重症例が集中したときなどはたまに一睡もできないということはあります.ただし,こういった病院の場合は当直医は10~20人くらいの医師でまわしているので,大体月に2~3回であれば,医師の疲弊が問題になることはあまりありません.ただし,入院を要するくらいの緊急症例の場合は各科の在宅オンコール医師が起こされて呼ばれることになります.

このレベルの病院になるとさすがに救急外来にも専属の看護師がつきます.放射線技師,検査技師については夜間は輪番で在宅当番というのが多いようです.しかし,夜間に一時に大量の来院があると,裁くのには一苦労することが多いですし,決して昼間と同じというわけにはいきません.救急外来前に患者さんが列をなすこともそんなに多くはありませんがないわけでではありません.コンビニ受診の患者対応をしている間に待たされた患者さんが具合が悪くなるなどということがあれば悲劇です.また,このレベルの病院でも不得意分野かつ緊急の疾患は他院にお願いすることもあります.その場合には余計なマンパワー(本来duty freeであったはずの)がとられることも事実です.昼間からの症状は是非昼間に受診してほしいというのはそういうこともあります.検査も手術も,はたまた他院への転院も,全て昼間なら話がスムーズにいくのです.夜間であったがゆえにマンパワー不足のため不利な扱いを受けることもあるかもしれません.

最後に200床を超える大規模病院,三次救急病院などです.

基本的にかかりつけでない限りはこういう病院での初診救急は,救命士なども含めた医療従事者によってセレクトされるべきでしょう

このような医療機関の夜間の受診は場合により一晩で100名を超えます.当直医も複数いる場合が多く,あるいはER型の体制をとっているところもありますが,基本的にこのような医療機関の夜間対応スタッフは,一睡もできないと考えた方がよいでしょう.しかしそれ以上に問題なのは,例え夜間であっても高度に専門的な医療が必要となる(心筋梗塞や脳梗塞,大動脈解離など)救急疾患を一手に引き受けていたり,あるいは心肺停止症例のような重症例が集中して搬送されてくるような医療機関であったりすることが多く,軽症例が集中することはこれらの邪魔でしかないのです.

たしかに一見軽症例の中にも我々医療従事者が「地雷」と呼ぶような緊急例が混じっていることはありますが,

それを見抜く仕事は,三次救急医療機関の仕事では断じてありません

それを期待するならいわゆる「夜間急病センター」に行くべきと思います.夜間急病センターの役割は単に感冒・胃腸炎などの軽症例のとりあえずの治療を行うことだけではありません.その集団の中に潜む,「地雷」を探し出し,適切な場所まで可能な限り安全に送る,それが夜間急病センターに科せられた大事な役割であり,それはなによりそこに勤める職員が理解しているはずです.

次々と心肺停止やら多発外傷やら搬送されてきててんやわんやの三次救急医療機関では、「一見軽症例」はどんどん後回しにされ、せっかく夜間に来院しても待たされている間に病状が悪化するなんてこともあります。きつい言い方になりますが、それは、1分2分を争う症例でもないのにそのような施設を自ら選んだ患者さんの自己責任と思います。救命救急センターは原則、自力であるいは家族の介助で移動できる状態の人がいくところではありません。むろん、周囲に媚びる余りそういう受診をやめるように強く主張宣伝してこなかった病院・医療従事者側と、そして大病院神話を生みだした大手マスコミの責任もないとは言えません。ここらへんは今後医療機関自身も「ダメなものはダメ!それは最終的には地域住民・患者さんの利益確保のためですから。」と言えるように変わっていかなければならないと強く思います。

※備考:

ここに記したことはあくまで一般論です。実際には人間の体ですのでいろんな例外もあると思います。

素人にはわからないから」と勝手な判断を正当化するような言い訳はどうぞなさらずに、わからなければお近くの医療機関や「こども夜間急病ダイアル」などの連絡先や、いわゆる「かかりつけ医」などに、まず相談する姿勢が重要と考えます。

「わからない」のは仕方ありませんが,「知ろうとすることすらしない」のは,患者側・住民側の姿勢としては大問題です.

日頃からこれらの連絡先について確認しておくとともに、緊急時のためにAEDや心肺蘇生などの講習を受けておくことをお勧めします。

とくにバイスタンダーCPRは、「素人」でも可能な救急処置で心肺停止症例の社会復帰率をアップするといわれています。

こういった市民レベルでの地味な努力が、実は地域医療を支え、存続していく大きな力となっていくことを、ぜひご理解いただきたく思います。

なぜコンビニ受診がいけないのか(4) コンビニ受診とは?

いちばん大事なところに触れてませんでした.

なにをもってコンビニ受診とするのか?

これはいろいろ意見が分かれるところです.

このブログ内では

  • 「昼間は混んでいて待たされるから」「昼間は仕事があって来られない」などの不適切な理由で時間外・休日に救急外来に受診.中には急を要する重篤な疾患を疑う症状があるのに我慢してわざわざ時間外・夜間に来る,というものも含まれる.
  • 週休2日制をとっている医療機関では,金曜日の夕方近い時間になってくると,休日に再診という事態を避けるためにやや入院の敷居が低くなる傾向があり,それを熟知した患者(あるいは介護疲れの家族,場合によっては介護施設職員(!))が,入院希望でやってくるパターン.通常の昼間の外来に来ると少量の点滴や処方のみで症状が改善してしまい,入院とはならないであろうことが多い.背景に認知症や家庭の問題を抱えている場合が多く,たいてい一度入院させると改善後も社会的理由で家族が入院継続を希望し,ベッドコントロールがうまくいかない原因の一つとなる.これも広義の「コンビニ受診」と本ブログでは定義します.
  • 数日前からの症状で,夜間に症状が悪化したわけでもないのに急に不安になり来院するパターン.独居老人に多い.
  • 定期外来の受診忘れや,薬の不足分を希望して夜間に来院.
  • 特殊なパターンとして地元に唯一の医療機関が「信頼できない(多くの場合患者サイドの感覚で判断され,根拠に乏しい)」という理由であえて昼間に近医を受診せず,業務過剰という理由で町外からの初診を制限している70kmも離れた後方病院に受診を希望して夜間にわざわざ来院するパターン.(これ言ったらどこの施設かバレそう…).症状は軽症から即入院が必要なものまで様々….

などを「コンビニ受診」に分類しようと考えています.全てが軽症の受診ではないことにご注意ください

思い浮かぶのはざっとこんなところですが,明らかに夜間に受診する緊急性のないもの(不眠など)と,昼間のうちに受診しておくべきだったのに不適切な理由で夜間に受診するものの2つに大きくわかれます.

「コンビニ受診」については,このような受診は昔からいっぱいあって,病院経営改善を旗印にこれまではこういう受診も奨励されてきた過去があります.夜間であっても,どんな病気であっても,社会的入院であっても,受け入れればそれだけ病院収入になったからです.また,「患者さんは弱者.いたわるべき存在」という考え方(もちろん正しいのですが)が,こういった問題をアンタッチャブルにしていたこともあるでしょう.しかし,最近「医療崩壊」とくに「僻地医療崩壊」がクローズアップされるようになったことや,近年の診療報酬改定により医療機関の経営陣にとって夜間診療があまり”オイシク”なくなってきており(勤務する医療従事者にも患者さんにも全く関係のないことですが),そのことが「コンビニ受診」という言葉を生み,不適切受診を戒めようという考え方が出てくる土壌となったと思われます.

ここまでの記述(1)~(3)でもわかるように,医療崩壊=勤務医不足,ではありません.それと同等あるいはそれ以上に

医師以外の人的資源や,医療にかけられる経済的資源が不

してきている事実は全国民が認識すべきです.それが今回コンビニ受診についての記述をアップしようと思った最大の理由です.

話がそれてしまいましたが,次回からは中~大規模病院におけるコンビニ受診について述べようと思います.

なぜコンビニ受診がいけないのか(3) 無床診療所,有床診療所,小規模病院編

まず,無床診療所.

医師一人の場合が多く,24時間体制をとっていない場合が多いが,在宅支援診療所などで24時間電話対応をしている診療所では,やはり医師の疲弊という要素は第一に考えないといけないでしょう.

次に有床診療所と,医師数名程度で運営される小規模病院.

当然のことながらこれらの医療機関では当直明け休みなどは夢のまた夢であり,これも日常的にコンビニ受診が行われる状況では医師の疲弊も気にしなければならないでしょう.

しかし,それもさることながら,こういった施設では夜間勤務する看護師の数も2~3人程度であり,急患が来たら看護師が病棟業務を中断して救急外来対応をする,という体制のところもある.こういった医療機関では,入院患者は高齢者が多く,中にはちょっと目を離すと徘徊したり,点滴を自己抜去したりなど医療以外の点でリスクの高い患者さんが多数を占めるのが特徴.

もし,コンビニ受診で夜間担当の看護師が忙殺される事態になれば,病棟内事故の可能性も高くなってしまいます.

また,この規模の医療機関の場合,レントゲン技師や検査技師は大体一人で回している場合が多く,彼らが疲弊→退職するような事態になれば,その地域の医療体制はとても大きなダメージを受けるでしょう.

また,最近では医薬分業もすすみ,院内の薬の備蓄はごく限られた薬を限られた量だけというところが増えました.まれな疾患や,あまり多く使われない薬の場合は,院外の調剤薬局でのみ処方可能なものもあります.しかしそういう薬に限って,ないと命にかかわる,というようなものもあるのです.夜間に「薬が足りない」といって受診するタイプのコンビニ受診で最も困るのがこのパターンです.

また,町に唯一の医療機関の場合,待機のスタッフが呼ばれるとその分時間外手当が発生します.それは公的病院の場合は自治体から支出されます.それが恒常的になると病院経営や自治体財政を圧迫する要因となります.(この場合,医師の呼び出しは現在でもほとんどの医療機関がただ働きなので,医師以外のスタッフの話となります)

さて,脳梗塞や心筋梗塞,多発外傷のような,治療に一刻を争う疾患の場合は,この規模の施設では治療ができませんので近隣の大きな医療施設に搬送となります.とくに心筋梗塞などは搬送中に致死性不整脈などのため急変する可能性もあり,そのため医師が搬送に同行する場合,搬送元の病院は行き帰りの間医師不在の状態となるか,あるいは本来duty freeのはずだった医師が,留守番要員として動員されることとなります.

これは医師数名の医療機関としては非常に痛いことです.施設によってはこのような事態を避けるために病棟を持ちながらも夜間外来休止を考慮したり(こちらのサイトがとても参考になります),実際に夜間外来休止に追い込まれたりするところもあります.「医師の疲弊を避ける」という言葉の裏側にこんな怖い事実が隠れていることは是非一般の方々にも認識いただきたいところです.

え?そんなのコンビニ受診とは関係ないだろう…と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが,実際に昼間から胸が苦しいが症状が治まらないと夜間に歩いて来院される心筋梗塞の方や,数日前からなんとなく腰が痛いと夜間に突然来院される大動脈解離の患者さんもいらっしゃいます.可能な限り昼間の受診を勧める所以です.

次回はもっと大きめの医療機関,および三次救急医療機関におけるコンビニ受診についての話になります.

なぜコンビニ受診がいけないのか?(2) 医師が疲弊する状況とは…?

一般にいわれている医師の疲弊を気にしなければならないような医療機関はある程度限定されます.

まず,町に唯一の救急を受け入れている医療機関で医師も少人数で運営している場合です.

私も人口約4000人の町で医師3人+週末出張医で当直をまわしていたことがあり,このときは月に8~10回当直をしていました.

幸いなことに,一晩あたりの受診人数が多くても数名くらいしかいなかったので,これだけ当直しても体力的にはあまり苦にはなりませんでした(当時はもう少し若かったからかもしれませんが…).

しかし,これが軽症者がわんさか押し寄せる状況であったなら,たしかに過労死してもおかしくないかもしれません.

3日に一度ほとんど寝られず,代休もない状況がずっと続いたら…さすがの私もダウンしてしまうかもしれません.

次に挙げられるのは,3次救急医療機関や巨大病院です.

こういった医療機関では一晩の受診人数が多ければ3桁になることもあり,あるいは心肺停止症例などを積極的に受け入れているところでは,普通の状況でも当直医はあまり寝ることができません.

良心的な医療機関では当直は夜勤として扱い,翌日は明け休みとしているところもありますが,そこまでやっているところは多いとは言えません.

一方,現在の私などは,月に多くても2回までしか当直はしておらず,出張医の手も借りて常勤医の当直を減らしている状況です.

救急外来も軽症から心肺停止症例まで何でも来ますが,人数は多くても一晩で20人.単に医者の体のことだけ考えるなら,コンビニ受診どんと来い!という状況ではあります.

各論に進む前に覚えておいていただきたいのは,

コンビニ受診をしてはいけない理由は,決して夜間医者を休ませるためだけではありません

むしろ医師がほんとうに疲弊してしまう状況は比較的限られており,コンビニ受診をしてはいけない本当の理由はそれ以外のところにあります.

(次回に続く)

なぜコンビニ受診がいけないのか?(1) 総論

あまり文章が長くてもうざいだけなので,基本的に一つのネタを一画面におさまるようにして,どうしても長くなる場合は分割して小出しにする,という方針としたいと思います.

で,お初のお題はコンビニ受診.

はじめにお断りいたしますが,小生,いわゆる「コンビニ受診」については実は賛成派です.

急病で受診を希望される患者さんについては夜間であろうが何であろうができるだけ受け入れるのが理想と考えています.

しかし,実際問題としてそれを受け入れるのが厳しい現状ではあります.

コンビニ受診をしてはいけない,その理由としてよく言われるのは,「勤務医は夜間当直して翌日も通常勤務をする.医師の疲弊の原因となるので,よほどの急病でない限り,夜はお医者さんを休ませてあげましょう」と…日本医師会で配っているポスターにもそう書かれていますし,世の中のほとんどの皆さんはこのような理解をされていると思います.

これは非常に残念なことです.

これを喧伝すればするほど,「医者は高い給料をもらって云々…」とか,「嫌なら辞めろ」とか,「そんなことはわかった上で医者になったのではないか」と,反発ばかり生むような気がします.

実際のところ私も,当直で急患来院で起こされれば「眠いな」「辛いな」という感情がないといえば嘘になります.でも,それはある意味しょうがないと思っていますし,私一人が夜働くことで患者さんが助かるならそれに越したことはないとも思っています.

しかし,時間外受診が発生した場合に働くのは,当然のことながら「医師」だけではありません.

守衛さん,事務当直,夜勤(あるいは当直)看護師,場合によってはX線技師,検査技師…高次医療施設に緊急搬送になれば救命士,消防職員も巻き込みます.

医者に対するネガティブな感情でものを言いたくなるのもわからないではないですが,裏でこれだけの人が動くということも忘れないでいただきたいところです.

さて,実際のところコンビニ受診がいけない理由は,その医療機関の性質によっても異なります.田舎の一人診療所と数百床の大病院とで同じではありません.それを一緒くたにして議論しようとすると,論理が破綻します.

次回以降に各論として医療機関の種類ごとに,なぜコンビニ受診がいけないのかを掘り下げて行きたいと思います.

キーワードは「医療資源の枯渇」です.

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