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保健所は一体、何をやっているのか!?~新型コロナウイルス肺炎


ご無沙汰しております。
こういったブログ投稿をしておりますと、ファクトチェックの手間がすごくかかるので、なかなかポンポンとコンテンツを上げられない状況が続いております。

そんな中ではありますが、新型コロナウイルス肺炎が中国・武漢を中心に発生し、
厚労省の1月27日付発表では、1月24日12:00現在で、中国で2,744名の感染者が診断され、80名が死亡する惨事となっています。

一応公衆衛生医師のブログを名乗っている以上、さすがにこれをスルーすることはできません。

とはいえ、収集可能な情報は厚生労働省のサイト国立感染症研究所のサイトから収集できますし、
WHOのサイトWPROのサイトなんかでも様々な情報が発出されているわけです。

感染症専門の医師がわかりやすく解説してくれていたりもしますので、
今更屋上屋を架すが如きをやってもしょうがないので、
ウイルス学的事項や医学的事項についてはそれらのサイトを御覧ください。

SNSなんかを見ますと、何かあればまず保健所に連絡、という投稿が至るところに見られ
様々な広報の成果が現れているようで、ありがたい限りです。

ただ、じゃあ保健所は何をやっているのか、というのが一般市民の皆様から見えづらいのもまた事実です。

どうしてかというと、実際の事例が発生するか、直接の相談を受けたりしない限り
通常保健所が相手にしているのは個々の市民ではなく、
管内の市町村だったり、医療機関だったり、あるいは今回のような例なら、宿泊施設さんだったりするからです。

「保健所は啓発を行わないのか?」という声もありそうです。
例えば北海道のホームページでも触れてはいますが、
あまり細かいところまでの記載はしていません。

これはどうしてかというと、
厚生労働省や国立感染症研究所からの通知やプレスリリースなども1日1日変わっていく中で、
どれだけ急いで更新したとしても、リアルタイムにならず、結局「遅れた情報」になっていくばかりでなく、
ちょっとした情報の齟齬が混乱を引き起こす可能性が大きいからというのもあるかと思っています。

「ならば、国や国立感染症研究所のHPをみてください」という方が早くてかつ正確で即時性があるからです。

だから、住民のみなさんから見えない裏側ではいろんな調整に動いているのですが、
表立って「保健所が何かをしている」ようには見えないのです。

一方で、「疑い事例」が出ると話は変わってきます。
おそらくどこの保健所であっても、「疑い事例発生時フロー」や「マニュアル」などを作成したり、
患者受入が想定される医療機関との調整を事前に行ったりして、
いざ事例発生の際にはすぐに動けるように準備をしているわけです。

具体的には、疑い事例が出た場合の行政検査の手配と検体の発送(現在は国立感染症研究所ですが、もうすぐ各地方衛生研究所レベルでも調べられるようになるはずです)、
当該患者さんの医療の手配・受診調整、サーベイランスの届け出窓口としての業務、
然るべき医療機関への患者さんの移送、
そして確定例となった場合は、国や都道府県とも連携しながら、
本人の疫学調査、濃厚接触者の追跡フォローなどの感染拡大予防対策を行っていきます。

「疑い事例はその時点では公表しないのか?」「検査陰性の公表はしないのか?」という声が聞こえてきそうです。

仮にそのような事例が発生したとして、検査が陰性であった場合、
保健所や自治体が発表した情報から個人や場所の特定につながれば、
それは「重大な人権侵害」につながってしまうことになります。

一方で、検査陽性例、つまり確定例については、これまでの例から
厚労省が対応し、「感染拡大予防対策に必要な情報のみを公表」することになります。
実際、厚労省の記者会見の模様をライブで何回か見ましたが、
感染拡大予防に関係ない情報については公表しない方針を貫いていました。

問題は検査の結果待ちとなっている疑い事例です。
厚労省のサイトによれば
1月27日12:00現在で、国内で14件の検査を行い、うち4件が陽性(つまり公表されている確定例)でした。
裏を返せば、14件検査をやって、10件が陰性であるわけです。

感染症対応においては「人権やプライバシー」と、社会防衛の概念は
時に相反するものとなります。
その匙加減は大変に難しいものです。

たとえば報道各社にしても、記事にするネタが欲しいでしょうから、
当然いろいろなことを聞いてくるわけです。
それはそういう仕事なので仕方がないとは思います。

しかしながら、社会防衛のために、感染者、あるいは疑い症例の人の人権やプライバシーに
制約を加えて良いということになりますと、
それはかつてのハンセン氏病の悲劇を繰り返す端緒となりかねない、ある意味危険な考え方でもあります。

行政としては、その匙加減を慎重に図りながら、やっていくしかないのです。

「健康危機管理」という言葉があります。

住民という集団の健康を害する可能性のあるリスクとしては、
今回のような感染症であったり、集団食中毒、環境汚染、水質汚濁、はたまた毒劇物を使用した犯罪であったり、
あるいは地震・大雨のような自然災害であったり、あるいは戦争や騒乱なんかまで挙げられます。

そのような危機的状況において、住民の健康を政策的手段で守るための方策が、
いわゆる「健康危機管理」なわけです。

具体的にはリスクに関する調査を行い、いろんな可能性を潰していき、
そしてそのリスクを他部局と協力して取り去る、あるいは実際の有害事象として住民に害が出る前に
食い止めるというのが危機管理の手法となります。
根本的手段から姑息的手段まで、有効と思われる様々な手段を用いることになります。

現在中国で行われている旅行制限や移動制限もその一つの手法です。

しかし、通常の状況でそんなことをすれば当然日本では人権問題になるわけで、
そこは、対象となる健康危機のトータルでの怖さによってさじ加減を変える必要があるわけです。

こういった危機管理や、危機に際しての陰での調整作業なんかはなかなか見えにくいところなので、
それもあって、有事に保健所が何をするのかが分かりづらいということになってしまいます。

今回のコロナウイルスにはまだまだわからないことが多くあります。
しかし、それと同時にわかってきたこともいろいろ出てきました。

国、都道府県、保健所、そして各市町村、医療機関、その他の施設など
さまざまなクラスタが協力しあって、なんとか人的被害を最小限に食い止めるべく
頑張っていかなければなりません。
みなさまにおかれましても、行政や自治体から協力依頼がありました際には、
何卒ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

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コメント

>通りすがりの関係者 さま

 ありがとうございます。
 現場からもいろいろ言いたいことはあるのですが、
 今の私はプレーヤーでそれを望んで現場に入ったわけですから、
 この件に関する言及はさすがに私も避けます。

 しかし、一言だけ言うならば、世の中には
 いろいろな考えの人がいて、いろいろな考えの自治体があり、
 いろいろな考えの首長さんもいらっしゃるわけです。

 メディアの動向に注目するのは我々としては当たり前の話ですが、
 メディアが世論の代弁者だと思ってマスコミの顔色ばかり伺って仕事をしていると
 思わぬところで足元を掬われるなと、最近は感じております。

 

北海道新聞2020/2/21夕刊(web版)に「道と札幌市 批判の応酬 感染者の報告遅れに苦言⇔中途半端な公表に疑念」という記事がありましたね。「どちらがどう」の言及は今回も控えます。

ただ、行政主体と国(道・市町村)民との信頼関係を繋ぎとめるための発表のはずが、発表内容やタイミングによっては、患者/ご家族を深く傷つけ、また「患者/ご家族/医療機関とそこから直接情報をいただく担当者」、「担当者/行政機関同士」等における信頼関係を修復不可能なくらい傷つけることも経験しており、患者/ご家族はもちろん、北海道と札幌市双方のご担当者のご心労に思いを馳せ、心よりお見舞い申し上げます。

さて、国がきちんとした見解を出さないのが悪いというのは簡単ですが、感染症法第15条(の2、の3を含む)の調査が法定受託事務で国には処理基準を示す義務がある一方で、第16条(の2を含む)の情報提供、個人情報保護、協力要請の方は自治事務であって国が「技術的助言」を出さなくても法的問題はない、という作りになっているのが悩ましいところです。
まあ、地方分権により自治事務となっている以上、国がぁ!道がぁ!市がぁ!と言っても仕方のないことで、それぞれの行政主体が責任(訴訟対策も含め)をもって法を執行していくしかないものと思います。

なお、深くかかわっているはずのメディアスクラムについても、今回は言及を控えます。

>通りすがりの関係者 さま

 多くは語れませんが、この状況で、より大変なのはおそらく本庁なのではと推察します。
 市型保健所の場合はまた違った枠組みになるかとは思いますが。

改正政令施行日が2/1に繰り上がるとか。。2/7の円滑な施行を目指して準備してきたものがいろいろ前倒しになり、土日返上で行うことになりそうですね。
こうなった原因には触れませんが、政府や「専門家」が公衆衛生を含む行政に対する国民の「多様な意識・価値観」を甘く見ていたことは間違いないと思います。

これで、国としては政令を施行してしまえば一段落でしょうが、突然急な梯子を一気に上ることを強いられる保健所現場は大変だと思います。
しかし、それ以上に、この「多様な意識・価値観」に晒されながら「共同社会の組織的努力」を糾合しなければならない公衆衛生行政・活動の「重さ」に思いを馳せています。
私がまだ現役だったとしたら、この「重さ」に耐えられる自信はありません。

>通りすがりの関係者 さま

 ご無沙汰しております。
 北海道内で事例が出てしまってからはいろいろなことに忙殺されております。

 別にルートから市型保健所の大変さを聞いておりますが、
 こういった危機管理事案でも県型にはない苦労があるのですね。

 幸いこちらは各関連部署も協力的で、
 すくなくとも本事案に関して仕事がやりづらいということは全然ありません。

 今後沈静化するのか、あるいは大規模な蔓延が起こるのかわかりませんが
 あらゆる可能性を考慮しつつ、どんと構えるというのがあるべきスタンスと思ってがんばります。

 

少なくとも人権制限を伴う措置については公式には2/7の政令施行日までは発動できないでしょうが、それまでの間に感染症法を所管する都道府県や保健所設置市がやっておかなければならない事項は山のようにあるはずで、地域住民、特に地域の保健医療福祉従事者が一致団結して準備に当たられることをご祈念申し上げております。
私自身、SARSのときは保健所設置市にいて、市役所庁内はもちろん感染症(入院)医療機関や道庁・医師会等との調整にずいぶん気を遣いましたが、おそらくそれ以上に道庁は保健所設置市に気を遣って全道的な調整をしてくれていたものと思います。
あのときは奇跡的に日本国内における患者発生はなく(通過患者はいましたが)、準備だけで済みましたが、今回はそうもいかないものと思います。遠隔地の道立保健所の課題は思い浮かぶのですが今は控えます。
とにかくご健闘をお祈りするばかりです。

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