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「北海道の医療の実情」とは(病院再編統合に関連した若干の分析)(2)

承前

北海道の医療の「広域分散性」についての考察の続きです。

ア,外来診療機能

 これは例えば、風邪などの急病や、血圧などの慢性の病気の医療を行う機能で、
 おそらくもっとも皆さんには身近なものと思います。

 ではさっそくデータを示します。

Photo_20191013164801

 このデータは、今回名指しとなった54施設の中で、
 島内に内科医療機関が他にない奥尻島国保病院以外の53施設を対象としています。

 多くの医療機関が同じ町内に別な内科医療機関を持っていることがわかります。
 だからといって、キャパシティの問題もあるので、代替可能性があるとかなくなってもよいということではありません。
 一方で、直近の内科標榜医療機関まで10kmをこえる医療機関が53施設中17施設あることにも注目です。
 最長は図に示すとおり35.3kmですが、猿払村国保病院がなくなったとして、
 住民のみなさんが浜頓別に行くとはちょっと思えません。恐らく大部分が稚内に行くのではないでしょうか。
 しかし、だからといってこのデータが実態を反映しないデータなので役に立たないというのは早計です。

 住民の皆さんはこれ以上の距離の移動を余儀なくされるわけですから、
 北海道の「広域分散性」を示すデータとしてはこれで十分と思っています。

 ただ、この内科外来がなくなるということは、実質的に病院そのものが消滅することを示しています。
 実際にはこれまでの、道内で病院が維持できなくなったケースでも
 その大部分は有床または無床の診療所化、あるいはサテライト診療所などとして
 生き残っているわけですから、そういう意味での医療機関の必要性と、残すための方策は
 十分地域で話し合う余地があるのではないでしょうか。

イ,急性期入院診療機能

 これは病院の「病院」たる所以であるコアな機能です。
 この機能を失うということは、「回復期」「慢性期」病院として生まれ変わるか、
 あるいは有床または無床の診療所化するということになります。

 では、データを示します。離島である利尻島国保中央病院、奥尻島国保病院を除く52施設を対象としています。

 Photo_20191013165901

 これは、厚労省が毎年行っている病床機能報告の結果から出したデータです。
 29年7月1日現在のデータなので少し古いかもしれませんが、30年度の結果がまだ公表されていないので
 ご容赦ください。
 こんどは町内レベルに近いところは少なく、10~40kmくらい離れているところが多いという結果が出ました。
 最長は76.8kmある広尾~帯広間となりましたが、
 実はこの間にも、大樹町国民健康保険病院や、更別村国民健康保険診療所、中札内村立診療所などの
 有床医療機関が存在します。しかし、いずれも「急性期」に名乗りを上げていません。

 そもそも病床機能報告は「自己申告制」で、
 有床医療機関ごとに自分たちの病床が「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つのうちのいずれに当てはまるかを
 自分たちで判断して「ベッド単位」ではなく「病棟単位」で報告してもらうものです。
 したがって、例えば1病棟しかない小さな病院で急性期と回復期の両方を診ていてもどちらか一方しか報告できず、
 残りの病床数は「0」と報告せざるを得ないわけです。
 このために、南檜山、日高、根室の各医療圏は、回復期「0床」と報告され、
 若干の物議を醸しました。
 普通に考えて医療圏まるごと回復期医療なしなど、いくらなんでもそんなわけはありません。
 実際に厚労省から、半ば言い訳じみた事務連絡が発出されています。
 こういう数字は都道府県や全国単位で大まかな傾向を示すのには適しているかもしれませんが、
 二次医療圏単位の方針をこの数字を使って決めろというのは無理があります。
 自分たちで誤解を招くような指標を作っておいて、「誤解させる状況が生じていると想定される」とは
 雑な仕事にもほどがあります

 話がそれましたが大樹・更別・中札内でもひょっとしたら細々と急性期医療を行っているかもしれない
 (というかその可能性が高い)と思いますが、そうであったとしても数字には現れないので
 このような結果となってしまった可能性があるという話です。
 しかしながら、広尾町国保病院のHPを見ると、「北斗病院」へのリンクがあるくらいのつながりはあるようですので、
 この76.8kmという机上で出した数字は、まんざら間違った結果ではないようでもあります。
 (追記:とある方からご指摘をいただきましたが、広尾町国保病院については独法化の際に
  北斗の理事長が法人理事長になられたようです。つながりどころの話ではないのですが、
  サイトで確認できた話であり、すっかり見落としていました。ご指摘ありがとうございます)

 いずれにしろ、この機能を維持するためには「病院」または「有床診療所」であることが条件となります。
 現状での維持がむずかしいとなれば、どこまで縮小してもよいかという議論にならざるを得ません。
 地域によっては、この議論をきちんと行わないといけないところもあるのではないでしょうか。
 かりにこの議論を先延ばしにしていると、いずれ経営の問題あるいは人的医療資源の問題などで、
 予期・意図しない縮小、すなわち「医療崩壊」を起こしてしまう懸念があります。
 医療機能の縮小は計画的に、かつ粛々と行っていくべきものと私は思っています。 

ウ,小児科の専門診療機能

 子供を持つ世帯が田舎に引っ越したときの最重要事項の一つが、地域における小児科診療と思います。
 正直、隣町まで行かないと小児科医の診療を受けられないなら、いっそ自分が隣町に住んで
 そこから町をまたいで通勤しようかという気にすらなります。

 ここでは、内科・外科とは独立した小児科外来を週4日以上行っている施設、
 および内科・小児科や総合診療科であっても小児科専門医が担当している施設を抽出し、
 その結果54施設中14施設がヒットしました。以下にその分布を示します。

Photo_20191013173201

 正直な話、小児診療にあたって内科医や外科医がやっている「なんちゃって小児科診療」では
 親御さんも不安を覚えるでしょうし、担当している医師もそうだと思います。私がそうでした。
 では、総合診療医はどうなのかというと、たしかに総合診療医や家庭医は
 その修行の過程で、一定以上の小児診療に関する知識・技術を身に着けているはずです。
 少なくとも、何の修行もしていない「なんちゃって小児科」よりは安心できるはずですが、
 ただ、他の専門医療と大きく違うところは、
 目の前に総合診療科のブースと小児科のブースが並んでいます。
 初診でどちらでもいいと言われたらどちらを選びますかと問われたら、
 ほとんどの親御さんが小児科を選ぶと思います。
 これは小児科専門の方が安心できるということだけではなく、
 そもそも一般小児科外来自体が「小児の総合診療」的機能を内在しており、
 (小児科が専門しか診ないというのは一部の大病院を除き非常にまれなシチュエーションなので)
 成人の診療と違って何も入り口が「総合診療科」である必要がないからなのでしょう。

 前置きが長くなりましたが、データです。

 Photo_20191013162401

 拡大しないと見づらい大きさになってしまいすみません。
 (図とシングルクリックすると自動的に拡大します)

 上段が「小児科かかりつけ医機能」を、下段が「入院も含めた小児科急性期診療機能」を反映するようにしました。

 結果、いずれも直近の医療機関が10~30km離れているところが多くなった一方、
 最長はいずれも厚岸町立病院となりました。
 この厚岸町立病院は、この規模の町のこの規模の病院には珍しく、
 小児科医が院長を担当しています(ちなみに私の大学の先輩に当たる方です)
 ここが小児科専門診療をストップした場合、周囲は釧路・別海・根室まで行かないと
 小児科医がいないということになってしまいます。

 しかしながら、全道レベルで考えると、例えばオホーツク海沿岸では紋別~稚内間に小児科はないようですし、
 日本海側でも羽幌~稚内間に小児科はいないということになります。
 やはり「なんちゃって小児科医」も必要なのです。
 北海道と北海道医師会、北海道小児科医会では、これらの医師に対する小児救急の研修会を行っています。
 「なんちゃって小児科医」にはたしかに限界があるとも思いますが、
 きちんと修練すれば本当の緊急時には子供を救うこともできると思っていますし、
 北海道のへき地で勤務するにはどうしても必要な知識・技能であると、自らの経験からもそう思います。

エ,人工透析

 これは数的には大したことありませんが、
 状況によってはなくなると該当者はその町には住めなくなるか週3回の長距離通院を強いられます。
 多くの未導入の地域で切望され、そしていざ始めてみて中止の危機となればみんなが騒ぎ出すという
 なかなかにシビアな医療であります。

 Photo_20191013174801

 対象54施設中、人工透析をしている施設は22がヒットしました。
 透析ほど、「多くの場所でやっている」イコール「簡単に導入できる」ではないということが
 現場感覚として強く感じられる施設はありません。

 旅行透析が受けられないかどうかを調べていると、
 「どこでもやっているのに、なんでここではやってないのか」と思うこともあるかもしれません。
 それはへき地であればあるほど、多大な労力をかけて維持しているということなのであり、
 その労力を割くリソースのないところでは、透析などできやしないと、そういうことなのです。

 ではデータです。

Photo_20191013175701

 これは見事にバラけました。(「離島」は利尻島国保中央病院です)
 ~5kmに分類された3施設のうち2施設は、「実績僅少」ではなく「類似かつ近接」に分類された都市部の大病院です。

 隣接する透析医療機関まで30km以上離れている6施設は
 典型的な都市部から離れた「田舎病院」です。

 再編統合で透析医療に手を入れるならば、
 そもそも透析しなくては生きられない患者さんの人生を大きく変えることになるのと同時に
 医療供給の効率や少人数を対象とした医療のリソースのあり方をどのように考えるかを
 それぞれの地域に突きつけられているということでもあり、
 おそらく地域のみなさん、まして透析医療の当事者たちは
 そんなことを厚労省に勝手に決められたくないと強く思うことと思います。

 しかし現実には透析医療を継続するためには、高価な機械の整備、
 そして、臨床工学技士の継続雇用、担当看護師の育成など
 それ相応の経済的、そして人的コストを必要とするわけですので、
 地域にとってもしっかり考えていかなければならないことと思います。
 故・村上智彦先生が言っていたように
 「命にかかわるからといくらでもお金を使ってよいのではなく、
  命にかかわるからこそしっかりお金のことをかんがえなければいけない」と、
 これは人的コストにおいても同じことが言えると思います。
 居住地選択の自由や、生存権・幸福追求権にも関わるので大変にむずかしい問題です。

 ただ、羅臼のように診療所化しても頑張って透析を続けているところもあるので、
 やはり、「何を選び、何を手放すか?」という議論が大事ということと思います。

続く

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