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地域枠とペナルティについて。

折しも、東京医大の入試を巡る不祥事でネット界隈は大論争が起こっていますが、
こちらはいろんなトピックを含む大変複雑な問題でまだまだ頭がまわらないので、
本日はあえて地域枠の話です。

医学部受験の地域枠といっても2種類あります。

一つは、卒業後の義務年限を果たす代わりに授業料や生活費を貸し付け、
義務を果たせば返還免除にするという、お金による契約。(以下、貸付枠とする)

もう一つは、金銭的な援助はしないが、その地域で働くことを前提に
一般入試とは違う特別な枠で学生を受け入れるということ。

後者はとくに、北海道のように道外からの受験生を多数受け入れ、
卒業後は道外への流出が多かったようなところでは貴重な枠になっています。

その数、

札幌医大 定員110名中地域枠90名、うち貸付枠15名
旭川医大 定員117名中地域枠52名、うち貸付枠12名
北大    定員112名中地域枠5名、うち貸付枠5名
北海道「地域枠医師の配置等の考え方」より)
※上記文献では北大地域枠総数が「-」になっていますが、記載ミスと思われます。
※エントリー作成後、指摘をいただきましたが、
 北大は一般枠入学生から希望者を募る形のため、
 地域枠の定義に当てはまる学生は「0」ということのようです。

この地域枠に関して、義務に違反するとどういうことになるでしょうか。

金銭が絡むならことはそんなに難しくありません。
貸与金の一括返還を要求すれば、少なくとも法的な「オトシマエ」はつきます。
お金で契約した人に対して、お金で契約破棄のオトシマエをつけようとしている人を
止めることは許されないので、これは仕方ないことかと思います。
(それがいいことか、道義的に許されるのかどうかは、もちろん別として)

では、金銭の絡まない、単に特別枠で合格させてもらった地域枠出身医師はどうなるでしょう…。
この時点では大学を卒業し、国家試験も合格して医師免許も発効しているわけですから、
それを剥奪することはできません。

一つ考えられるのは、入学にさかのぼって入試合格から全てをなかったことにしてしまうことですが、
その場合医師免許剥奪ということにもなるので、そんなことを強行すれば
自治体と大学・文科省、それと医師免許を所管する厚労省の間で大モメに揉めるでしょう。
まず不可能な選択肢です。

次に、違約金を払わせるとか損害賠償請求という選択肢がありそうですが、
いったん違約金や損害賠償・和解金の相場が確立してしまうと、
「なんだ、お金で解決できるんだ」ということになれば
これは逆にお金持ちの子弟が地域枠で入学して、違約金を払って他県に流出してしまうという
モラルハザードを生み出しかねませんし、
それ以前に大学入試合格とお金を交換可能な価値とみなしてしまうという面で大変不健全なやり方です。

そんな中で、地域枠を放棄した研修医を引き取った病院に補助金や研修医定員の削減等でペナルティを課すやり方 が議論されています。

これに関しては正直、よく考えたなとは思います。

いささかやり方がヤクザチックで正直自分の感情的には気に入らないのですが、
地域枠出身医師個人にペナルティを課すことの法的リスクを考えると
他にやりようがなかったのではないでしょうか。

個人的には、地域枠の真価は
彼らが義務を終えて総合医や家庭医、専門医、指導医として独り立ちしたときに
それでも地元県のために頑張ろうと思ってくれる人がどれだけいるかということで
示されるのではと思います。

別にみんながみんな田舎で働く必要はありませんし、
ことに北海道の場合は札幌や旭川で大病院の部長や教授になって
地域の医療を支えるのも立派な地域枠義務終了後の生き方と思います。

北海道の地域・地方センター病院クラスの病院は
内科外科などのメジャー科や、皮膚科・泌尿器科などのマイナー科にかかわらず
「専門医」不足に大いに喘いでいます。
これら中規模病院で働く専門医がしっかりした体制でなければ
周辺の小病院・診療所は頼る寄る瀬がなくなってしまいます。

ことに心臓と頭の緊急に最前線で対応、かつ病院到着までの時間が予後に直結する
循環器内科と脳神経外科の地方での空洞化は北海道では深刻な状況ですし、
高齢者の多い地方を束ねるセンター病院や基幹クラス病院での
整形外科や泌尿器科医師の不足は大きな問題となっています。
産婦人科医師の偏在による地方のお産事情はもう言うまでもないでしょう。

北海道で医療の将来を担うことに、少しでも希望を持てるようにする。
我ら先達の大きな使命と思っています。

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地域医療」カテゴリの記事

コメント

>一尺八寸 さま

 ありがとうございます。
 本文でも触れましたが、お金でカタをつける話にしてしまうと、
 「相場」が出来上がってしまい、本人だろうと、病院だろうと
 お金を払えば許されるという「モラルハザード」が間違いなく発生すると思っています。

 だからといって本人側にペナルティを与えてしまうと
 「職業選択の自由」に引っかかる可能性があります。

 だから病院に対してのペナルティとしての研修医枠の削減などはまだ比較的実効性がありそうではあります。
 (そもそも枠を減らされれば呼べないので)
 本文にも書いたとおり「他にやりようがない」というところもあろうかと思います。

 実効性については今後の実態評価を待つという点は同意です。

どうなんでしょうか?ペナルティ払ってでも欲しい所はありますから。。。。。。それで歯止めが効くのか、実際に行って見ないとわからないかもしれませんね。。。。。。

>この撤退時期にたまたま行政側の(二列目あたりの)関係者だった私としては、当時渦巻いていた「いろいろ複雑な思い」よりも、むしろその「複雑な思い」に対して「複雑な思い」を持っていました。

 この「複雑な思い」というのは私の思いではありません。
 その件は私がなにか「思い」を抱くにはあまりに昔すぎて、また、一方のネガティブな話しか聞く機会がなかったので、
 私としては「文字通り」複雑な思いも「あったのでしょう」としか言えません。

>では、因縁まみれの「行政」が「見えざる神の手」に代わって最適ならずとも妥当な組み合わせを行うことが出来るのか・・。

 まさにそれを今、試されているのでしょう。
 今の私からはこういう他人事のような言い方しかできませんが…。

>単純に感謝だけでなくいろいろ複雑な思いを抱える方々もいらっしゃるでしょうね。

この撤退時期にたまたま行政側の(二列目あたりの)関係者だった私としては、当時渦巻いていた「いろいろ複雑な思い」よりも、むしろその「複雑な思い」に対して「複雑な思い」を持っていました。(つまり、「もっと感謝してもよいのでは・・」ということです。)
故M先生への「思い」もそうですが、SAMMY先生と私とでは抱える思いが別の方向になることがあるようです。

>ただ、いろいろな背景があって遠い北海道への派遣となっていたのでしょう。

昭和時代の大学医局人事は、思いもかけない場所で思いもかけないご縁がつながっていたものです。それぞれのご縁はそれぞれに「いろいろな背景」があって、とくに道外の医局とのご縁は(表に出しにくい諸事情もあり・・)当事者しか知らないということも少なくありませんでしたが、それも含めて「『見えざる神の手』が適宜最適の組み合わせを行った」と理解することにしています。

では、因縁まみれの「行政」が「見えざる神の手」に代わって最適ならずとも妥当な組み合わせを行うことが出来るのか・・。
本心は否定的ですが、それでもなお他策ナカラムヲ信ゼムト欲ス・・です。

>通りすがりの関係者 さま

>「戦略的配置」の「戦略」が、誰による誰のための・・ということが課題ですね。

 全く文字通りそのままそう思います。

>今話題になっている首都圏の某大学もまた、かつて「見えざる神の手」により北海道の地域医療に多大なご貢献をいただき、同様に「見えざる神の手」により撤退されたことを感謝の気持ちで思い起こします。

 そういえば確かにそうでした。すっかり失念していました。
 過去の件に関しては、単純に感謝だけでなくいろいろ複雑な思いを抱える方々もいらっしゃるでしょうね。
 ただ、いろいろな背景があって遠い北海道への派遣となっていたのでしょう。

>先生には、ぜひとも行政の中枢部において戦略立案と実現にご活躍下さるようお祈り申し上げております。

 ありがとうございます。
 ただ、それを決めるのは私ではありません。適材適所という言葉もございますので(^^;

>まさにその「戦略的配置」が必要と思います。

「戦略的配置」の「戦略」が、誰による誰のための・・ということが課題ですね。
昔ならば、大学に力があって、医者は今より貧乏で、行政や大病院は大学に三拝九拝し、大学同士and/or医局同士の力の拮抗があって、それを調整する「見えざる神の手」があって、結果的に「最適配置」が行われてきたものと思います。
今話題になっている首都圏の某大学もまた、かつて「見えざる神の手」により北海道の地域医療に多大なご貢献をいただき、同様に「見えざる神の手」により撤退されたことを感謝の気持ちで思い起こします。

これからは行政がその戦略と実現を担うことになるわけで、

>いろいろ医学的・地理的以外の要素もあるようでなかなか難しいようです。

おっしゃるとおりです、、が、

>今の私の立場では願うことしかできませんので・・・

先生には、ぜひとも行政の中枢部において戦略立案と実現にご活躍下さるようお祈り申し上げております。

>通りすがりの関係者 さま

 ありがとうございます。
 まさにその「戦略的配置」が必要と思います。

 ドクターヘリにしろ、脳外科・循環器内科にしろ、産婦人科にしろ、
 症例数と搬送時間のバランスで配置できるとよいのですが、
 いろいろ医学的・地理的以外の要素もあるようでなかなか難しいようです。

 北海道は本州の考え方でことを進めようとすると
 何から何まで規格外なので尚更ですね。

 地域枠がそういった現状に一石を投じるものであることを
 願っています。(今の私の立場では願うことしかできませんので…)

>ことに心臓と頭の緊急に最前線で対応、かつ病院到着までの時間が予後に直結する循環器内科と脳神経外科の地方での空洞化は北海道では深刻な状況ですし、

北海道の僻地で勤務していた90年代のこと。出張先にいた検診クルーの会食中に、その一人が仲間の眼前で脳梗塞を起こしました。当時はドクターカーどころか救急救命士制度もなかったので、ともに会食していた医師の判断でまずは近隣病院に消防の救急車で運んで応急処置を行ってもらい、さらに病院長にお願いしてその年開設されたばかりの最寄り(それでも100キロ離れた)の総合病院脳外科まで病院救急車を出してもらいました。あとはt-PAとその後の専門医療機関における言語リハビリ等が行われ、患者さんは後遺症なく完治しました。

もしその1年前ならば、救急車で迅速に運べる範囲に脳外科はなかったので、救命できなかったか、たとえできても重大な後遺症が残ったはずです。またたとえ100キロ先に脳外科があったとしても、当時はt-PAがあまり認知されていなかったので、普通に消防の救急車でその近隣病院に運ばれたまま一般外科医がマンニトールなどで様子を見るにとどまった可能性もあります。
まさにその現場にいた医師の的確な判断と救急車を快く出してくださった近隣病院長には感謝しています。
今ならばドクターヘリがありますが、それでもまさに一刻を争う心臓と頭については「戦略的」配置が不可欠です。
当時はまだ大学医局に一定の力があり、その大学の「戦略的」配置だったように思いますが、今ならば大学が主導するにせよ行政が主導するにせよ、もはや地域枠医師の存在抜きには考えられないものと思います。

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