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【公衆衛生医のお仕事26】災害時の公衆衛生

西日本が大雨で大変なことになっています。
いまだ、被害の全容すら明らかになっていません。

犠牲になった方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、
市民生活の一日も早い正常化をお祈りいたしております。

今日のエントリーでは、今週私の勤務する地域で行った
防災関連の研修についてアップする予定でしたが、
その裏で本物の大災害が起こってしまったので予定を変更して
災害時の公衆衛生活動についてアップします。

https://www.nbc-nagasaki.co.jp/nbcnews/detail/1252/
長崎県から岡山県に派遣されたDHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)の報道です。

発災後の急性期には、
・医療機関そのものが被災する(職員が出てこれない、建物が浸水したり倒壊したりする)
・医療機関への医療機材や食料等の供給が、交通障害等のために絶たれる
・負傷者が医療機関のキャパシティを超えてに大勢押し寄せる。
 更に上記の状況が重なり、医療需要と供給のアンバランスが起きる。
・医療機関や行政との情報伝達が不足しているため、患者があふれパンクしている病院と
 余力があるのに患者の少ない病院が出てきたりする。
・多数発生した重症患者が、地元の高次医療機関だけではさばききれない
などの問題が発生します。

これら状況による「回避可能な死」をなくすことを目的に結成されたのが
DMAT(災害時医療支援チーム)です。
発災後超急性期~急性期(大体72時間程度)をめどに、
自県や他県から被災地に派遣され、
・重症度によって患者を振り分けるトリアージ(Triage)、
・傷病者の初期治療(Treatment)
・圏内でさばききれない重傷者を圏域外に搬送(Transport)
という役割を担うチームです。

一方で、生き残った人たちにも難儀な状況が待ち構えています。
・医療体制が破壊されてしまい、高血圧や糖尿病などのかかりつけの医療が受けられない。薬が足りないのに処方が受けられない。
・避難所の居住環境による病気の発生(感染性胃腸炎やインフルエンザなど)
 (トイレ不足・使用不能→飲水控え→脱水・熱中症)
・自家用車に避難、寝泊まりしている住民の深部静脈血栓症(いわゆる「エコノミークラス症候群」)
・食事の問題(栄養の偏り、食中毒など)
・津波や洪水などで浸水した家屋の消毒
・被災者の心のケア

などの、公衆衛生上の問題が起き、これらも
「回避可能な災害関連死や永続的な障害」の原因となることが
東日本大震災を機に認識されることとなりました。

もちろん、普段から保健所や市町村の保健師さんらは
住民の健康管理、感染症・食中毒の予防や、精神保健の相談を受けていたりするわけです。
ところが、いったん災害となると、それらがどっと押し寄せてきます。
そんな時には地元の役所や保健所、保健師さんや担当職員も被災していたり、
そもそも必要な仕事の絶対量が多すぎて
例えば避難所一つとっても、地元保健師さんには回りきれないとか、
行政管理栄養士や行政薬剤師などはさらに足りなくて対応しきれない状況になります。
ただ、災害時の公衆衛生については、平時の公衆衛生の延長線上にあるものがほとんどで、
そのやり方をある程度ルーチン化して公衆衛生面からの支援を行うために
厚生労働省、日本公衆衛生協会、全国保健所長会などが検討を重ね
この3月に制度化されたのが
DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)です。
公衆衛生医師、保健師、薬剤師、管理栄養士、事務員などがチームを組みますが、
DMATとの大きな違いは、DMATはそのチームのままで動きますが、
DHEATは「溶け込み支援」といって、
被災地の保健所に入り込み、構成員はバラバラになってそれぞれ必要な仕事をします。

その中で、避難所の巡回を手伝ったり、地元スタッフとともに公衆衛生対策を考えたり、
地元保健所の手足となって情報収集に走り回ったり、市町村に対して技術支援を行ったり、
多様な業務をこなしていきます。

災害時の公衆衛生と隣接する分野の支援として、
他に、心のケアに携わるDPATや、リハビリに携わるDRATなどがありますが、
ここでは割愛します。

私は今回この件で直接に支援にかかわることはないと思いますが、
こういう動きがあって、現地に行った公衆衛生支援チームが
どんな活動をしているか知っていただけますと幸いです。

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コメント

>通りすがりの関係者 さま

 ありがとうございます。
 私の現在の勤務先でも、どちらかといえば支援よりも受援の方がメインになりそうですし、
 その体制をどう整えるかは大切ということになります。

 一方で、ご指摘の通り派遣側の日常業務をどうするかは大きな問題となってきます。
 被災地の業務についてはいわゆるBCPに基づいて日常業務の中でも
 優先度の高くない業務をある程度犠牲にすることは致し方ないというコンセンサスは
 得られてきていると認識してよさそうですが、
 一方で被災地ではなく支援する側の日常業務に穴を空けると、最悪住民からの苦情が出かねません。

 これは行政でも臨床でも同じことで、
 私自身も東日本大震災後に某所の某病院に支援に行った際に
 当時勤務していた某病院に許可をとる際、
 「たまたま夏休みの期間に」「自分の穴埋めをするのが院長であり」
 「『病院の宣伝にもなる』という名目で」という口実を作って支援の許可をもらったということがあります。

 行政としても、実質1保健所1医師という体制の中で、
 派遣のみならず、被災地の業務に集中せざるを得ない状況の中で、
 「匿名」という事情から実施側からのキャンセルが不可能なHIV・ウイルス肝炎検診を
 どうするかという課題が、2年前の連続台風の際に実際に提起されました。

 その際には、本庁からヘルプの行政医師が当該保健所に派遣されるという形で
 ことなきを得ましたが、
 災害対応業務に現に当たっている人員の本来業務をどうするかは
 ご指摘の通りで大きな課題と言えます。
 たとえば所長が1週間いなくてもいい体制を作るなどのごく内輪の対応と、
 関係各所への内部的な対応と、
 住民などへの理解を求める外部的な対応、
 この3つ全てに完璧に対応することは現時点で至難と言えるところであり、
 こういった課題があることを広く知られるべきであると思いました。

災害時の公衆衛生ですね。災害地支援で注目されがちなのは被災者と「支援者」であって、長崎放送動画も「支援者側」から撮られたものですが、「通りすがりの関係者」としては、「受援」態勢にも興味があります。
公衆衛生の分野における受援態勢づくりの重要性が広く認識されるようになったのはここ近年のことと理解しており、マスコミ的にはこれからなのかもしれませんね。

ところで、今はあまり注目されていないでしょうが、送り出し側の日常業務に穴が空かないよう送り出し側内部で支援するシステムの構築も重要と思います。
たとえば、災害現場に派遣された自衛医官の業務補完のため派遣元駐屯地の日常診療業務に予備自衛医官の先生が従事したという経験談を某医師会雑誌で拝読したことがあります。そういうシステムを自衛隊以外でも構築することを検討すべきと思います。

>私は今回この件で直接に支援にかかわることはないと思いますが、
>こういう動きがあって、現地に行った公衆衛生支援チームが
>どんな活動をしているか知っていただけますと幸いです。

先生ご自身におかれましては、直接現地に行かなくても広義の支援は日常業務の中で行っておられるものと拝察します。

送り出し側内部の「苦労」は画になりづらく、またプラスよりもマイナス評価される危険があるのでなかなか表面化しづらいのでしょうが、支援する側にとっても「非日常」であるといういまの体制をいつまでも続けるべきではないと思います。

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