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内科外来診療と地域保健の「プロフェッショナリズム」

 こんな私ですが、かつて「大学病院」というところにいたことがあります。

 そこでは、主に消化管、つまり胃や腸の病気を専門にしていたのですが、その中でも特に「炎症性腸疾患」といわれる、「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」といった疾患の診療に力をいれていました。

 両方共、いい時は普通に近い生活が送れるのですが、一旦悪くなると下痢や下血、腹痛、発熱などに悩まされ、これを繰り返すという大変な難病です。未だに、「完全に治す」方法は確立されていません。

 共通して言えるのは、いかに内科の範囲でおさめるか、つまり手術を避けるか、というところが急性増悪したときの治療の基本的な目標となります。

 潰瘍性大腸炎の手術は、全結腸切除、つまり大腸を全てとってしまうことであり、多かれ少なかれ下痢に悩まされることになりますし、クローン病にしたって、切ってつないだ腸に潰瘍ができたり、そのために繋ぎ目が狭くなって便が通らなくなったり、手術を繰り返すうちに癒着で腸閉塞になったり…といったこともあり、内科の治療で改善できるならそれに越したことはないわけです。

 「手術になったら、負け」

 と、誰かが言ったわけではありませんが、そういう気概で、何より患者さんの将来のために、手術を避けるべく、全知全能を傾けて治療を行うわけです。決して、「いざとなったら外科で切ってもらおう」などといった了見で治療に当たっていたわけではなく、それが、「内科のプロフェッショナリズム」だったのだと思います。

 さて、日々、内科外来で診療にあたっているわけですが、ご高齢の方はとにかく一日でも長く「元気に楽しく生きてもらう」こと。在宅の人は在宅で、施設の人は施設で、精一杯可能な範囲で楽しく元気に生きていただくこと、若い人は将来入退院を繰り返すような体質を作らないこと、少なくとも私はこれを目標に外来診療を行っています。

 そう。内科外来を担当する医師にとって、担当患者の予定外入院・緊急入院はまさしく「負け」なのです!

 しかるに、過去の勤務先でも「病院収入がまずい。このままでは不良債務を抱えてしまう。入院は重要な病院の収入源だ。だから、とくに内科は一人でも多く、一日でも長く入院させてくれ」といくつもの施設で何度言われたか、もう思い出せないくらいです。

 そのたびに、外来担当内科医としての(もちろん入院も担当していますが)モチベーションが、ガタガタと音を立てて崩されていきました。へき地と呼ばれる場所ほどそういう傾向は強く、「自分はいったいここに何をしに来たのだろう」と自問自答する日々が続きました。

 地域保健行政にも同じことが言えると思います。「自分たちの管轄の住民、高齢者を入院に追い込んでしまったら、負け」というプロフェッショナリズムで仕事をするのが本来の姿であり、まして「いざとなったら病院へ」などという考えで仕事をするのなら、それは「保健行政」という尊い仕事の価値を自らの手で地に落とすのと同じことだと強く思います。それはもはや「仕事」とも呼べないお粗末なものです。

 首長自ら「先生の力でわが町を健康な町にしてください。入院するお年寄りが多すぎます。お年寄りの入院を一人でも、一日でも減らし、一日でも長く、在宅で、施設で、元気に生き長らえさせてあげてください。若い人が年をとっても、ず~っと農業や漁業に携われるように、一緒に頑張りましょう!」

 そう言われたら、それこそ腕まくりして限界まで頑張るぞ!という気にもなるというものです。

 ここで、ある、プロサッカーチームを想像してみてください。

 さて、これから選手がまさにピッチに散ろうとしている寸前に、いきなり球団社長が現れ、

 「お前らぁ~。今日の試合は八百長をやって負けてくれ。そうすれば、チームの親会社に金が入る。チームは金策で困っている。お前らは俺達の金で食っているんだから、嫌でも従ってもらう。じゃ、ヨロシク!」

 などと言ったら、選手はどんな気持ちになるでしょうか?

 類は友を呼ぶ。という言葉があります。

 先のサッカーチームの例えだと、嫌になった選手は内部告発に走るか、「やってられない」と次々と心ある選手は辞めていき、実力のなくて他に行くチームのない選手と、金に困った選手は残るかもしれません。

 目先の収入ばかりしか見えず真の意味で医療を充実させることを理解しない首長・議員・経営陣のもとには、本当に地域の行く末を案じる医者は寄り付かず、同じく金のことしか考えていないヤブ医者の巣窟となることでしょう。

 そういう土地の住民に限って

 「こんな田舎に良い医者は来ない」

 なんて言うのです。

 その原因が奈辺にあるのか、一度でも腰を据えて考えてみてほしいものです。

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