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「医師が行きたくなる病院」とは…

医師になって以来,研修病院以外は全て,
医師不足やそれに関連する事件(いわゆる「名義貸し」)で
新聞に載ったところばかりを勤務しているわけなのですが,
とくに地方の医師不足や立ち去りが取り沙汰されるようになってからは,
「医師が来たくなるような病院」…というフレーズをよく見かけるようになりました.

でも,ちょっと待ってよ.

医師は病院や診療所に「来たい」から勤務するわけではありません.
その地域や施設にニーズがあるから勤務するのです.

少なくとも私の職業歴の中で,自分が行きたいから勤務した施設は,
自治医大の義務中に決められた「研修」のための施設だけです.

あとは,各自治体から道庁に医師派遣の依頼があり,
そして道庁の担当部署が,ニーズありと判断したから派遣されたのです.
(その判断に問題ありと言われれば反論できない部分もあるのですが…)

医師側から見たって,
「行きたい病院」を選ぶというのは
その社会的責務から言って,本末転倒なことです.

医師不足の自治体や住民のやるべきことは,
医師が「来たいと思う」施設や地域を作ることではありません.

なぜ,どういう医師が必要で,どんな仕事をどれだけの量こなしてほしいのかという
ニーズの質と量を明確にして提示し,今後の地域医療のビジョンも含めて
しっかりした計画を示し,派遣元を納得させられるようにすることです.




一方で,「ニーズがあっても行きたくない施設」もあります.
これは住民や役所の人よりも,地域の病院の管理職にこそ知ってもらいたいことです.

・診療科どうし,医師どうし,管理職どうしの深刻な対立がある.

  この板挟みや患者さんもろとも巻き込まれることですごく嫌な思いを
  したことが何度もあります.管理職どうしが喧嘩されると,部下の医師も患者も
  たまったものではありません.私も何度となくこのストレスでつぶれかけました.

・明らかに診療能力に問題のあるベテラン医師の尻ぬぐいを若手~中堅がさせられる施設.

  後輩の失敗なら,叱ってフォローすればいいことですし,それは先輩医師の仕事と
  思っています.しかし,先輩の失敗はさりげなくフォローできるレベルならいいですが,
  明らかに不適切な治療を行って状態を悪化させられた患者さんを受け持たされる
  若手~中堅の立場はかなり辛いです.病状説明にもはっきり言って難渋します.
  厳しい言い方ですが,まともな医療のできる医師を雇いたいなら,こういう医師は
  管理職権限でさっさとクビにすべきです.
  もっとも管理職医師の医療レベルが最悪,というところも経験しましたが,
  これはどうにもしようがありません…私の立場では,正直言って.
  医師といえど自分の身はかわいいのです.家族も子供もいます.
  へボ医師の失敗の責任をかぶせられて職を失い,家族を路頭に迷わせる
  わけにはいかないのです.

・医師の間で業務量に著しい差異があり,それを知りながら放置している施設

  一般に,業務を多くこなしている医師ほど能力的には優秀な傾向があります.
  そういう医師のモチベーションがこういった環境では,奪われてしまいます.
  いわゆる「立ち去り型サボタージュ」の遠因ともなりかねず,憂慮すべき事態です.
  管理職の力量が大きく問われます.

・地域医療崩壊の主因が医師不足以外にあるような地域・施設

  どんなに医師を雇ったって,看護師や技士などスタッフの不足が満たされなければ,
  医師は満足に働くことができません.剰え,それが原因で収益が少ないのを
  医師のせいと公言するような行政官のいるような自治体もあります.
  失礼この上ありません.

・新規雇用した医師に,施設や地域医療のビジョンを示さず,医師を有効に使うことのできない施設

  これは管理職の責任であると同時に,派遣元と自治体担当部署の責任でもあります.
  それを繰り返せば,医師派遣ニーズそのものに対する疑問が出て当然です.

・やんごとなき理由で地域を去った医師に対する風当たりの強い地域

  自分も辞める時同じ事をされるのかと思えば働く気がなくなって当然です.
  現代はインターネットの時代です.悪い噂は全国に広まります.


残念ながら,どんなにニーズがあっても,こういった施設・地域で働くのは
自分の心の健康も考えると厳しいです.

私は,この仕事が好きでやっていますが,だからといって「行きたい病院」などはないし,
あくまで「ニーズがあるか」「自分で適任か」この2点で判断しますし,そうすべきと思っています.
上に挙げた「行きたくない施設」はありますが,そうでなければどこでも自分で役に立てるならと,そういう気持ちはあります.

だから,将来に対するビジョンもなく,ただ数あわせで医師を派遣する派遣元とも,
「医師は金で釣ればいい」と考えている雇用先とも,全く話がかみ合わないのです.

そしてお気づきかも知れませんが「待遇面」には一言も触れてません.

そこの考え方からおかしい人が,行政にも,地域住民にも,そしてあろうことか医師にもいるのがとても残念です.

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コメント

>ちゃんねる 様

回答が長くなりますし、皆さんに読んでいただきたいので、
別エントリー
http://drsammy.cocolog-nifty.com/haguredoctor/2011/11/post-e659.html
立ててお答えします。

ニーズがあり、
なおかつ「ニーズがあっても行きたくない施設」に該当しない病院が
「行きたい病院」ということになるんでしょうか。
先生の「ニーズがあっても行きたくない施設」に該当するかどうか、勤務前から見抜くのはなかなか難しそうではあります。何か良い方法があればいいのですが・・・

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